家族との魔法の愛
ぴぽこ
その時は突然に
「はぁ〜、逆に半額じゃないお惣菜を見てみたいわぁ〜」
気づいたら私はスーパーの惣菜を見ながら独り言をつぶやいていた。
私の名前は早瀬 玲奈。小学生の可愛い娘が一人いる。
夫は数年前に亡くなってしまった。
夫の名前は早瀬 統一という。
私はなにか辛いことがあるたびに、ふと、あの時のことを思い出して元気を出す。
そう、夫が元気だったあの頃のことを。
そして、私は、もう他界した夫にこう語る。
「大丈夫、今、私の傘になってるよ。」
夫は死ぬ半年前まではずっと元気だった。
日常というものはすぐに崩れるものだと気づいた瞬間でもあった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その日は残暑も無く、涼しい日だった。
「あ、俺、明日健康診断やわ。」
夫がふと思い出したように言った。
「あ、そうなん?
じゃあ、今日は断食?」
「いや、断食は嫌やわw けど、酒はやめとくか。」
「オッケー」
そして、その日の翌日、夫は健康診断を受けてきた。
その日はなんともなかった。
しかし、健康診断の結果は驚くものだったのだ。
『病院で精密検査が必要です。』
そう書いてあったのだ。
「なんか、悪い病気でもあったんかな?」
「さぁ、でも、ちょっと嫌な予感するな。」
その日の翌週、夫は病院で精密検査を受けてきた。
数時間後、夫は家に帰ってきた。
どうやら、その場では結果を教えてくれなかったそうだ。
代わりに、
『明日、家族と一緒にもう1度、ここに来てもらってもいいですか?』
と言われたそうだ。私はもっと嫌な予感がした。
その日の翌日、私たちは有給を取って、病院へ向かった。
空はどんよりと曇っていた。
その病院の診断所に入り、ほどほどの挨拶をした後、
さっそく、医者から、こう告げられた。
「ここの部分に影があるのが見えますか?
え〜、単刀直入に言いますと、膵臓がんですね。
しかも、残念なことにステージ4まで進んでしまっています。
逆に、今まで症状がなかったことがすごいくらいです。」
しばらくの沈黙が入った。
「正直、もう、次の桜を見ることは難しいかもしれませんね。
そして、早瀬 統一様には準備ができ次第、この病院で入院してもらいます。」
闇がもっと深くなってしまったかのように、沈黙がもっと続いた。
その数週間後、夫は会社に事情を言って、辞職した。
このあたりから夫の体調が悪くなっていった。
そして、入院して、闘病生活が続いた。
がんというのはやっぱり怖いものだ。
夫の体調はどんどん悪くなっていった。
それに比例するように夫につながる管も増えていった。
いろいろな治療もしたが、どれも”これだ!!”と感じる効き目はなかった。
夫は正月も病院で迎えた。
そして、2月に入って雪も本格的に降った頃、
夫は、とうとう、ホスピスに入った。
幸い、そこは自分たちの家の最寄り駅から電車で2駅ほどだったので、
足取りは重いが、すぐに行ける場所ではあった。
そんなある日、私はいつものように夫の病室へ向かうと
夫はいつもは寝てるか黙って外の木を眺めているだけなのに、
今日はいつもと違って本を読んでいた。
どうやら、やめた会社の同僚が、本を数冊ほど持って来てくれたらしい。
夫はその中の「魔法の愛」という本を読んでいた。
内容がまさに自分に当てはまるというのだ。
いつもどおりの日常が、”がん”によって、その日常が変わってしまい、
そして、それによる家族の愛が描かれた本だというのだ。
それらの本に励まされたのか、寝ている時間は減って、
代わりに、私たちのしゃべる時間は増え、笑顔が増えていった。
しかも、医者の話によると、がんの悪化が少し遅くなっているというのだ。
しかし、遅くなっても悪化は進んでいた。
時は4月。夫の目には、窓に映る桜の木があった。
もう、夫は末期だった。
「今年の桜は見れたぞ〜。
次の桜も見たかったなぁ〜」
夫は声がかれながらもしゃべる。
「これからも桜は毎年咲く。
同僚がくれた本の中にこんな一言が書かれていた。
『人は、人の傘になれる。』
俺も玲奈たちの傘になりたがったが、無理かもしれん。
これから大変になるかもしれんけど、頑張ってな。」
これが夫の最期に残した言葉となった。
そして、私はこう言った。
「ありがとう、またね。
来年の桜は私たちの目を通して見てよ。
私たちは魔法の愛で繋がっているんでしょ。」
そういう私の目には涙があった。
そして、娘も最期の夫にしゃべる。
まだ小学校に入ったばかりなのに、本当に賢く育ったものだ。
「またね、大好き。」
家族との魔法の愛 ぴぽこ @pipoko
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