第2話 あまいチョコレート

 今日は卒塾式。

 塾用のリュックにチョコレートを入れる。せっかく頑張ってラッピングをしたのだから、丁寧に。


 少し遅れたバレンタインチョコ。

 渡すのは駿しゅん君だ。


 重いテキストを詰め込まれてきたリュックは、チョコレートの軽さに戸惑っているみたいだ。

 でも私には、このチョコレートがとんでもなく重い。


 ちゃんと渡せるかな。

 受け取ってもらえるかな。


 告白、できるかな。


 ああ、もう。

 どきどきし過ぎで心臓が口からごろんと飛び出しそうだ。




 卒塾式では感動して少し泣いてしまった。


「ねえ」


 式の後のパーティで、友達が声をかけてきた。


如月きさらぎ君、渡貫わたぬき中に受かったらしいよ」


 駿君の方を見て、いたずらっぽく笑う。


 駿君が第一志望に受かった。

 ふわあっと心が明るくなり、きらきらした光が目の前に広がる。

 よかった。駿君の努力が実った。


 同じ中学に通うことはなくなった。

 でも、いい。受験を乗り越えた今、彼の合格が嬉しくてたまらない。




行野ゆきのさん」


 背後からの声に、心臓がどかんと音を立てる。

 駿君だ。友達は、にやにやしながら私から離れていった。


「あ、如月君。渡貫中、合格おめでとう。よかったねっ」

「うん。ありがとう」


 なぜか少しぶっきらぼうに言う。私、変な言い方しちゃったかな。


「行野さんは輝守でしょ」

「うん」

「そっ、か」


 少し俯き、紙コップをぐにぐにしている。


 これは今だ。今しかない。

 リュックを引き寄せ、勢いよくチョコを差し出す。


「これっ」


 周りの子に聞こえないよう、囁く。


「チョコっ。ばっバレンタインのっ」


 ぐいっと彼の手に掴ませる。


「じゃっ」


 そしてそのまま塾を飛び出した。




 私の名前を呼ぶ声がする。振り向くと、駿君が走ってきていた。


「待って。俺、お礼言っていないんだけど」


 彼は少し俯き、またまっすぐ私を見た。


「ありがとう」


 その笑顔に頬が沸騰する。


「でさ、ほ、ホワイトデーにお返ししたいから、えっと」


 ポケットからスマホを出したり引っ込めたりしている。


「連絡用に、ら、LINE、交換、していいかな……」


 え。

 えっと。

 これは、夢かな。


 私と駿君のスマホに、連絡先が行きかう。彼ははにかんで軽く手を上げた。


「ありがとう。またね」


 ふわふわな雲の中で、私も手を上げる。


「またね」


 別れてから少しして振り向くと、ちょうど彼も振り向いていた。

 声を出さずにそっと口を動かす。


 ――だいすき


 彼が目を見開く。

 拳を握り、ぐっと力を入れている。

 顔を上げ、私を見る。

 口を動かす。


 甘い光が胸に炸裂する。




 ――だいすき

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桜とチョコレート 玖珂李奈 @mami_y

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