死は終わりではない
- ★★★ Excellent!!!
死というものが終わりではなく、新たな始まりの扉であったなら。
本作は、そんな問いかけから始まる長編小説です。
2020年のパンデミックで人生を終えた中年男性が、1990年の少年時代へと魂を送り返される単なるやり直しの物語ではありませんでした。
これは、愛する者を救えなかった悔恨を胸に抱いた魂の、深い贖罪の旅路だと理解しました。
物語の白眉は、主人公・優を取り巻く女性たちの描写にあります。
天才発明家として君臨する姉・絵里香は、神話的な存在感を纏いながらも、弟への愛情に人間らしい脆さを覗かせます。
一方、重要な人物として現れる真姫は、幼い外見に反して、大人顔負けの意志の強さと純粋さを併せ持っています。
特に物語の要所で見せる彼女の激しい愛情表現は、愛の持つ美しさと激しさを同時に描き出した圧巻の内容です。
作者の巧みさは、時間軸を跨ぐ複雑な構成を、読み手に迷いを感じさせることなく展開している点にもあります。
並行世界という設定を用いながらも、決してSF的な設定に頼りすぎることなく、人間関係の機微に焦点を当て続けます。
優が繰り返す時間の中で、同じ人物でありながら微妙に異なる運命を辿る人々の姿が、時の残酷さと同時に、可能性への希望を紡いでいました。
幼馴染・湾子の救済を軸とした物語の前半部では、児童虐待という重いテーマが丁寧に扱われています。
安易な感動に流れることなく、社会の無理解や制度の限界を冷静に描写しているところには、作者の誠実さがうかがえます。
また、物語の中で描かれる病気による別れの展開では、現実と虚構が絶妙に重なり合い、読み手に深い印象を残します。
文体は平明でありながら詩的な美しさがあり、登場人物たちの心情の機微が繊細に描き分けられています。
特に優の内面描写は秀逸で、大人の記憶を持つ少年の複雑な心境が、丁寧に書かれていました。
まだ第三章までのレビューになりますが、続きを読むのが楽しみです。