第12話
「ねぇ。本当にこれでいいのかしら?」
ベリーは特殊な技を持つ、かつての主候補に尋ねた。
「充分だ。いや、これじゃなきゃ引き受けない」
「星のペンダントはどこで作ってるの?」そう、ミラに聞いて紹介されたコアースの職人は、砂漠の薔薇を手にしていた。
カバンに宝石を詰め込んだ時、一緒に持って来たらしかった。お金が無くなったので、宝石でもいいかと尋ね、どんなのがあるか見せろと尋ね返され、結果、今に至るわけで。
「でも、それお砂糖で出来たお菓子なんだけど……?」
「みりゃわかる。石だったら、いらねぇよ」
「……じゃあ、お願いします」
ベリーは、形が決まっていなかった赤い石を渡した。
「二つよ? 一つはコアース独自のやつで。もう一つは……」
「わかってるって。表からは普通の石にしか見えないような星の石だろう?」
受け取った石には目もくれず、ずっと砂漠の薔薇、いや、砂糖菓子を見ている。よくあの砂漠を越えてなお、形が残っていたものだ。
「大丈夫なのかな?」
「大丈夫だって。腕は確かだから」
ミラがそう言うなら、間違いないんだろうけど。
「二つも、どうするの?」
「一つはわたしが持つ。同じ石を持ってる友人がいるから、この石以外では作りたくないの。もう一つは、ユールに。同じものを同じ時に持つと、出逢えた日を忘れないわ。それにしても、キースがクラウドだったなんて」
コアースの入口でキースを、クラウドを見る。
「申し訳ありません。ベアトリス様。御母上のご命令でしたので」
そう、クラウドはかあさまのハーフノイドだった。外見を変えていたので、クラウドだと気付かなかった。もっとよく見ていたら、気が付いたのかもしれないけど。
「心配をかけてしまったわ」
かあさまに謝らなければと思う。
「帰りましょう。ベアトリス様。石はユールが持ってくるでしょう」
「ええ。ユール、お願いね? 半年後、楽しみにしてる。頑張ってね」
ベリーはユールの手を握り、微笑む。
「……ああ」
ユールは照れたように横を向いたが、視線はベリーをちゃんと追っていた。
「じゃあ、みんなありがとう。ユールをよろしくお願いします」
アンから合格点のもらえる仕草で礼をとる。
「まかせて。しっかり叩き込んでおくから。代わりにクラウドをお願いね」
ミラのウインクは、やっぱり真似したいと思った。
渋い顔のクラウドにクスッと吹き出してしまい、怒られそうになった。
何度も振り返り、手を振り、またねと言いながらコアースから離れると、また四方八方砂漠と化した。けど、クラウドがいるから、なにも問題はない。
「星の一族は、空想上の生き物みたいに思われていますが、結構多いのですよ」
「そうなの?」
ベリーは執事の微妙な笑みを見て驚いた。
「ベアトリス様も主になられましたから、知っておいてもよいでしょう」
その知るべきことは、驚きよりもはるかに上を行っていて、衝撃的で懐疑的だった。
「マリューちゃんが!」
「気が付かなかったのも無理はありません。マリューはベアトリス様の前では常に、貴女と同世代を想定していましたから」
「マリューちゃん……って何歳なのかしら? あ、じゃあ、マリューちゃんのお父さんって嘘?」
「はい。彼はマリューの主です」
ベリーはふぅっと息を吐く。
「世の中って知らないことだらけだわ。いいえ、違うわ。私が知ろうとしなかっただけ」
ちゃんと勉強をしよう。自分にできることは全部。
「先生の宿題。『愛と平和のために尽くせる』じゃだめかしら?」
愛と平和のためにって言ってもいいじゃない 時田柚樹 @Tokita-Yuzuki
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