第18話 首都攻防戦・後編

 セツナを背中に乗せたヴァンティーヌが魔導士協会に近づく。

 そこにはデビルや丙型魔族が押し寄せてきていた。だが、様子がおかしい。奴らが黒っぽい霧のようなものを纏っていたからだ。


(まさか! ヒュドラの権能が付与されているのか!?)


 セツナの脳裏に嫌な予感が奔る。つまり、他の魔族どもも魔法への耐性を得たことになる。


 ヴァンティーヌが魔導士協会の前戦につく。そこでセツナの疑念がよくない方で当たってしまっていた。防衛ラインが徐々に敵に押されて後退を余儀なくされている。

 それを見たヴァンティーヌは己のユニークスキルである高電圧の雷を放つ。すると雷は敵の一帯を殲滅させる。そのことから魔力を伴わない純粋な事象改変は通じる、とヴァンティーヌは周囲に教えてくれた。


 セツナはヴァンティーヌから降り、敵軍で奮闘している味方に辿り着く。


「フェイトさん、大丈夫ですか!?」

「セツナ君! 悪いっわね手伝ってもらって。本当なら私たちだけでも片がつくんだけどね……。アイツヒュドラが出た途端に劣勢になっちゃって。でもヴァンティーヌちゃんのお陰でなんとか対処法は見つかった。高位の魔導士なら気付いたでしょう。けれど、残念ながらマンパワーが足りない。戦線の維持で精一杯よ」


 戦線から電磁力で加速された岩や鉄鋼の塊が飛んできて、敵の波状攻撃を食い止めていた。


「ところでセツナ君」

「なんですか?」

ヒュドラ大きいヘビの相手をお願いできないかしら。私が持っているこの武器ではちょっと厳しいかも知れない……」


 フェイトさんの武器を改めて見る。持っているのはセツナの元世界ではレイピアと呼ばれる、突きを主体とする武装。特殊な効果があるのか薄い蒼光そうこうを纏っている。だが、いかんせん相手が相手だ。どんなに効果があろうと針でチクチク刺すようなものだ。大規模破壊には向いていない。


「分かりました。――――っ!? 奴を倒した後、自分は城に向かいます!」

「魔法耐性がなくなれば、私たちで十分。悪いけどあの子アメスのことお願いするわ。あの子が手こずるほどの相手では私は足手まといにしかならないから……」


 フェイトも感じたのだろう。城から伝わる大きな闘気を。十中八九、アメスさんとあの女魔族のクリスティーナだ。

 なぜ急に気配を感じられる様になったのかは分からない。それを考えるのは後回しにするべき、とセツナは判断する。


「では、行きます!」


 ヒュドラを倒すべく疾走するセツナ。少しでもフェイトさんたちの手助けになれば、と敵陣の群れに突っ込む。そして、その勢いのままデビルと丙型魔族の陣形の一部を削りヒュドラに肉薄する。

 セツナを敵と見なしたのか、ヒュドラの体から伸びる全ての頭が一斉にセツナの方を向く。そして、その口から太い光線を吐き出す。


(ちぃっ! 避けるのは容易だが、避ければ後方のフェイトさんたちへの被害は免れない。住民の避難が済んでいるのは幸い。建物は壊れてしまうがこの際仕方ない。人的被害は出さない様にしないと!!)


 セツナは走りながらも迎撃の体勢を構築する。

 真聖氣しんせいきを右腕に集中させる。そして、その腕を振り払う。すると、巨大なオーラの壁ができ、ヒュドラが放った光線を防ぐ。

 その間もセツナは走り続けヒュドラに肉薄する。


(倒して爆発されるのも面倒だ。空中にて破壊するのが最善!)


 セツナは、ヒュドラに近づくと、すぐさま一本の首を抱え込み空高くへと放り投げる。以前の世界とこのセカイの重力の差から、セツナにとってはこの程度の巨体を放り投げることは造作もないことだった。


(自分のの伝承なら中央の首を吹き飛ばせば倒せる。が、確証はない。まとめて一気に吹き飛ばすのが得策。ならば――)


 セツナの足元に幾何学模様が描かれた円形の魔法陣が出現。

 パンっと両手を合わせて広げると、バスケットボールくらいの球体が間に現れる。

 

「消し炭になれ! チェイン・ドラゴニック・ファイアリング!!」


 球体から龍の形をした二匹の炎が放たれ、ヒュドラを飲み込む。

 そして、灰も残さずヒュドラは塵へと還っていった。

 確実にヒュドラを駆逐の確認をしたセツナは、一旦魔導士協会の方を一瞥する。

 ヒュドラの権能が解かれた敵陣営に魔法が通じているのを確認。フェイトさんもいることからこれ以上の心配は必要なし、と判断。

 踵を返すと、王宮に向かって駆け出した。


♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎


 セツナが城門に着いた時、違和感を覚えた。

 都市であれだけの騒ぎになっているのだから、本来なら警備の兵なりがいるのが普通だ。ゆえに、セツナは張本人に問いただすことにした。


「そこで高みの見物を決め込んでいる奴、姿を表したらどうだ?」


 先ほどからセツナを伺っている奴が下手人だと判断。隠れても無駄なことを言い放つ。


「おや? バレてしまいましたか?」


 城門の上に、突如として一人の男が姿を表す。

 隠れていたのではない。何もないところから忽然と現世に現れたのだ。

 

 そこそこの顔立ち。普通の人が見れば『好青年』と言われるだろう。

 身体は鍛えていないだろう、至って普通の肉体。

 特にへんてつもない神官服。ただ、服の色はセツナと同じく黒い。

 総合的に見れば、決して人に害なす存在ではない。

 だが、


「魔族、か。そこそこ高位の」


 セツナの言葉を聞き、なぜかショックを受ける魔族。


「そ、ですか……これでも一応かなりの高位なんですけども」

「すまんな。何せここまで出会った魔族は三体しかいなく、魔族の脅威度は自分の中で曖昧でな。評価基準がわからん」

「さすが、プリウスさんを追い込んだ男。お強いですね」

「やっぱり奴の差金か」

「それこそ人聞きが悪いですね。ただ、同僚のよしみで協力しているだけです」


 魔族の男は城門の上から飛び降り、音もなく着地する。


「自己紹介が遅れました。僕は様に使える側近のジュラクと申します。できれば、『謎の側近』とか『正体不明の好青年』なんて呼んでもらえると嬉しいですね」

「そうか。自分のことは知っている様だが、一応名乗っておこう。『セツナ=カミシロ』。貴様たちから見れば異世界人になる」

「えぇ。魔族の中ではかなり有名ですよ、貴方は。摩訶不思議な力を持っている事で。」


 これまでのことを振り返るセツナ。魔族に苦戦した経験が皆無だから、魔族側の評価に首を傾げる。


「処でどこかお急ぎですか? ここは一方通行なんですが」


 ジュラクの言葉はセツナからすれば宣戦布告と捉える。

 ゆえに、


「すまないが、時間がない。通行止めなら、強行突破させてもらうが、構わない、な」


 セツナは全身に薄い真聖氣しんせいきを纏い、ジュラクに問いただす。

 城の方からは時々大きな振動が伝わってくる。

 このままあの二人の戦いが過激になっていくと城はおろかこの国自体が危ない。


「クロエさんのお仲間の割には真面目な人なんですね」

「言ったはずだ。時間がない、と」


 そう言いながら解放の準備をすると、ジュラクは慌てて進路を開ける。

 それを確認したセツナはジュラクを一瞥すると、城に向かって走り出す。


 神と魔が相対している戦場にて、



 

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前世で報われない魂が天界より異世界に輪廻転生(ログイン)できないので、異世界の魔族や悪人を斃(たお)して間引くことにした件 緋村 真実 @makoto_himura

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