File-0075291:幸福労働省

木穴加工

File-0075291:幸福労働省

「権力は、我々の暇を恐れている。」


 かの偉大なる哲学者(兼、一級国家ネジ回し係)のビトー・カワサキが残した名言である。

 彼の墓には、誇らしげにこう刻まれている。


『82万3452本のネジを緩め、82万3452本のネジを締め直した男、ここに眠る』



 農業、建設、医療、さらには小説の執筆に至るまで、ほとんどの仕事がAIによって遂行される時代。しかし、人は労働から解放されたわけではなかった。人々はAIにできない仕事を、その適性に応じて「幸福労働省」から割り当てられていた。



ケース1:鳥栖加奈子


 …498,499,500!

 ふぅ、と大きく息を吐き、鳥栖は両手に抱えたコピー用紙の束をトントンと揃えた。四回数え直したのだから、間違いはないはず。確信とともに、今日も自分の責務を果たしたという充実感が胸いっぱいに広がった。


 鳥栖の職場では、文書の作成も印刷もすべてAIによって行われている。ただし、プリンターにセットする紙だけは別。その枚数だけは、鳥栖のようなプロの用紙計数係の手によって、慎重かつ正確に数えられなければならなかった。投入する紙が一枚でも多かったり少なかったりするとプリンターは即座に紙詰まりを起こして故障してしまう、鳥栖は入社時に上司からそう説明を受けた。


 あれから10年、一度たりともプリンターがエラーを起こしたことはない。 鳥栖はそれを心から誇りに思っていた。


ケース2:猫目金彦


「というような話があるがどう思うね、猫目くん?」

 羽柴は書類から顔を上げずに問いかけた。


「ええ、穴を掘って埋める仕事があるとも聞いたことあります」

 敏腕経営コンサルタントの猫目は、持ち前の揺るぎない自信をまとったまま淡々と応じる。

「実際、そんなことでプリンターが故障するはずもありませんし、紙の枚数のカウント程度なら機械で十分対応可能です。政府は、AIに仕事を奪われたと感じるブルーカラー層の不満を和らげるために、そうやって意味のない仕事を創出しているのでしょう」


 羽柴が何かを言うのを待たずに、猫目はたて続けにまくしたてた。

「でも安心してください。我々のミッションはそういったものとは全く違います。クライアントのビジョンをシナジー効果でマネタイズし、イノベーションをドライブすることによって新たなバリューチェーンを構築し、ディシジョンメイキングにコミットする。こういったアジャイルでハイバリューなジョブにはまだまだ人間のクリエイティビティが不可欠なのですよ」




 農業、建設、医療、さらには小説の執筆に至るまで全ての仕事がAIによって完璧に遂行される時代。

 もはや人類が働く必要はなかったが、政府は一つの恐ろしい事実に気がついた。


「暇になった人間は、考え始める」


 こうして誕生したのが、「幸福労働省」である。

(設立時は「やりがい推進庁」というふざけた名前だったが、後に変更されている)


 この行政機関の使命はただ一つ。

「すべての国民に、例外なく、完璧で無意味な仕事を提供し続けること」


 そしてその任務は、一点の曇りもなく完璧に遂行されていた。


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(ここからミミズが這うような手書き文字で)


 AI小説家 NV-3001「逍寂」の作成した上記原稿について誤植確認(反復4回)を行いました。誤字脱字はありませんでした。

 なお、直近10年における「逍寂」平均誤植率は0.000%です。


 一級AI原稿校正員 木穴加工(署名)

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