愛しき満月の夜に

満月の夜に現れる切り裂き魔『紅一夜』を巡る本格ミステリー小説です。
登場人物たちの複雑な思いが交錯し、ますます深まってい紅一夜の謎。
最後まで目が離せない展開の連続で、とても読み応えのある作品でした。

　花街を彩る華やかさの裏に、誰にも言えない秘密が潜む。満月の夜に忍び寄る「紅一夜」の恐怖は、単なる事件ではなく、そこに生きる人々の心の奥を照らし出します。

　団子屋の娘、小梅の素直さや温かさは人の心を解かし、閉ざされた思いを引き出していきます。千秋との間には言葉にならない絆があり、舞妓として凛と立つ千秋の小梅に向ける静かな眼差しには、守りたい者への覚悟を感じます。

　一方で、花街に生きる者たちの思いは決して一様ではありません。義美の余裕ある微笑みの奥には計り知れない思惑があり、美紀の視線には葛藤がにじみます。そして、小梅に寄り添う穂波の想いは、彼女自身にもどうしようもできないものだったの…続きを読む