羽根を十枚集めたら

一花カナウ・ただふみ

神様に命じる方法

 天使の羽根を十枚集めたら、どんな願いでも一つだけ叶えることができるという。



 そもそも、天使の羽根ってなんだという話で、そんなものがこの世界にあるだなんて思えない。通称や俗称で天使の羽根と呼ばれるものがあるのかどうかもちょっとわからない。

 ただ、天使がこの世界にいるのだとしたら、さぞかし美しいのだろうな、と思ったくらいで。



### ### ###



 世界が混沌に呑まれていく。

 予言のとおりに終末が訪れたのだ。

 国の偉い人たちが集まってああでもないこうでもないと相談している間に、国民はそれぞれ自分の好き勝手に動いていた。街は大混乱だ。


「なあ」


 高い塔のてっぺんに住まう美しい彼女に、僕は問いかけた。


「うん?」


 彼女は首をゆっくりと傾げた。絹糸のように細くてサラサラとした銀髪が揺れる。刷毛のようにふさふさの睫毛が上下に動いた。


「世界が終わるけれど、君はどうするの?」


 窓の外、城下はあちこちで煙が上がっている。営みによるそれではなく、戦乱による煙だ。

 いずれこの塔も壊される。


「どうもしないよ」


 彼女は憂いに満ちた瞳を僕に向ける。蛋白石みたいな潤んだ瞳はこんなときでさえ美しく感じられる。


「どうして?」


 この土地を離れることが可能だろうから聞いたのに、彼女は困ったように笑った。


「あなたが私をここに閉じ込めたんじゃない。世界が終わるそのときまで、あなたが私のそばにいてくれるならそれでいいわ」

「……そう」


 閉じ込めたつもりもなければ、縛りつけたつもりはない。

 彼女がそれを望んでいると思ったから、僕は叶えてあげたんだ。


「あなたが気に病む必要はないわ。予言どおりに世界が終わる、それだけだもの」

「君が願えば世界は救われるかもしれないだろう?」

「それはそうだけど」


 そう応えて、彼女は細い肩をすくめて見せた。


「もういいじゃない。私はあなたとともに永遠になるの」


 うっとりとした表情を浮かべると、彼女は僕の背中に生えた翼を撫でた。


「じゃあ、なんのためにあんな伝承を残したのさ」

「願いを叶える方法?」

「神様に命令をする方法だよ」


 はっきりと告げる。

 翼を撫でる手が止まった。彼女は大きく息を吐き出す。


「……カウントダウンのつもりだったのよ」

「カウントダウン?」


 僕の翼から抜け落ちた羽を一つ拾い上げる。


「天使の羽根は抜け落ちるともう戻らない。求める者がたくさんいて羽根が全てなくなったらこの世界の終わり。そのつもりだった」

「実際は伝承が途絶えるほうが早かったわけだ」


 僕が指摘すると彼女はゆっくりと頷いた。


「私の声が届かなくなったなら、この世界はおしまい。もう疲れちゃったもの。みんな私を意識できないなら、それまでだと思ったの」

「そう」

「あなたは私を置いてどこかに行くの?」


 彼女の問いに、僕は首をゆるりと振った。


「どこにも行かない」

「なら、一緒にいてくれるのね」

「うん。ずっと、その最期のときまで」


 僕の返事が嬉しかったらしい。彼女は僕の首に腕を回して抱きついた。



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 天使ってなんだろう。

 僕は噂を聞いたときに疑問に思った。

 調べているうちに、翼を持っているらしいことを知った。

 羽根を無理矢理抜かれているときに、自分とよく似た存在なのだと意識した。


 世界が終わると流布したのは僕だ。

 世界を終えるようにと僕は自分の羽根を抜いて、もう飛ぶことのできない天に願った。

 神様を恨んで、ともに消えてなくなろうと命じた。


 この世界は終わる。

 僕の願いを静かに叶えて。




《終わり》

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