ただ、血が出ただけなのに……。
文久三年生
ただ、血が出ただけなのに……。
血が出た
アソコから 血が出た
大人になったということだろうか
まだ年齢が足りてなかったような
精神的にも 足りてないような
私はまだ子供
未成熟
血が出たのは 成熟への一歩ということなのだろうか
大人になるのが こわい……
起きる
食べる
出す
休む
大人になったら ちゃんと定期的に続けていかなければならない
起きて食べて出して休んで起きて食べて出して休んで
毎日同じことの繰り返しを 時には笑ったり 泣いたりして
今日は楽しかった 今日は散々だったと言いながら
バランスをとって大人を続けていく
私にはきっとできない
今までもできなかった
みんながやってる 当たり前のこと
私には当たり前にならなかった 当たり前のこと
私はみんなと違う日々を歩んできた
血が出て ホッとした
血が出たのは 成熟への一歩 そういうこと?
大人になった私は 好きな人と結ばれて 子供を作って 子孫を残すことができる
なんてすごいことなんだ
嘘
めんどいことが一つ 増えただけ
好きな人もいない 子供を産みたいとも思わない
人が滅びようが滅びまいが関係ない
私が死んだら 世界が死んだも同然だから
好きな人が出来たら 子供が欲しいって思うんだろうか
他人が大事になるんだろうか
私は当たり前のこともできない子
きっと思わない
ほんとだめだね
誰かが言ってる
私もそう思う
真っ当じゃないよね
真っ当に生きたいとも思わないけど
真っ当じゃなきゃだめなのはわかる気がする
世の中みんな私のような人間だったら
ここまで人類続いてない
人類をここまで続けてきた人類は めっちゃすごいね
崇めるね
神だね
先祖みんな神なのかもね
私もいずれ神になれるのかな
直属の子孫はいなくても
神と呼んでくれるのかな
呼ばれても困るか
血が出ただけなのに
考えすぎ
神とか言ってる自分が可笑しい
信仰心なんてないのに
なにかに縋らなくていいということは やっぱり子供なんだよね
大人になったらなにかに縋らないとやってけないんだよね
じゃないと続けていけない
大人になるって 可笑しくなることなのかもしれない
自分が可笑しいと言ってる私は やっぱり大人なのか
大人とか子供とか言ってる時点で 子供のような気もするけど
大人になりたくないだけなのかもしれない
私は大人になりたくない大人
私は常識を武器に正義を語る大人じゃなく
非常識を武器に正義を語る大人
ちょっとかっこよく見えるけど
非常識を武器に出来るほど学がない
武器にもならない非常識を振り回して
民から蔑視されるのがオチ
また 血が出た
めんどい
めんどいことが
だといいのに
ということは
私はあと八で大人
カウントダウンが始まった
あと三ぐらいで止まったりしてね
子供が出来て止まったら 私は大人だよね
子供が子供を産むって可笑しいもんね
可笑しい
可笑しいから大人
もう それでいい
私は大人 可笑しな大人
私は 可笑しな大人の一歩を歩み始めた
なんか嫌いじゃない なってもいいのかもしれない 可笑しな大人に
また 血が出た
いいね 私は着々と 可笑しな大人になりつつある
また 血が出た
いいね
また 血が出た
いいね
そっか 私は間違えてたんだ
私は当たり前のこともできない できないのに当たり前になろうとしてた
だから苦しかったんだ
真っ当な大人じゃなくていいんだ
真っ当な大人じゃなきゃだめなんていうのは 私の幻想だ
私は可笑しな大人
また 血が出た
血が出た? 血が出たって 真っ当だね
可笑しな大人なのに
真っ当だね
また 血が出た
真っ当な部分 可笑しな部分
両方あるから苦しいんだね
大人って 苦しいもの
苦しさから逃げちゃいけないもの
でも 私は逃げる
可笑しな大人だからね
だから苦しいんだけどね
それでも続けるよ 大人になるために
また 血が出た
止まる気配全然ない
ほら また血が出た
よく出るね
あれ 今何回目だっけ?
もういっか 私は大人で
私は可笑しな大人を続けていく
誰になんと言われようと続けていく
私が決めたことだから 後悔なんてない
なんていう固い意志が 私なんかにあるわけがない
また 血が出た
もう十回は血が出てるだろうから 私は大人
血が十回出たから私は大人
当たり前のこともできない 固い意志もない私にはちょうどいい
起きた食べた出した休んだ起きた食べた出した休んだ
バランス取れてるのかな
股 血が出た
とか言ってる自分が笑える
時には笑えてるから 大丈夫だね
意外と私は大人を続けられるね
続けていけるって大事だもんね
また 血が出た
大人になっても血はどんどん出ていく
血が出るだけの大人 だけじゃ実情 大人の底辺てだけだね
まだ一歩目だから当たり前か
とりあえず 学校行くか
「血が出たよー」て
みんなぽかーんてして
さらに孤立は絶対だね
別にいっか
私は可笑しな大人だから
少数派を楽しもうじゃないか
いいね
大人に深みが増してきてる気がする
底辺卒業
まだ 学校行けてないけど
正直 行こうとも思えてないけど
いいんだよね
一歩は踏み出せたんだから
またなにか来るでしょ
二歩目のなにかが
楽しみとも言えないけど
不思議とこわさはなくなってきてるかも
来ていいよ 巻き返しの二歩目
そうだね
今自分で言って「ぐっ」ときた
巻き返しだね
血が出たのは 成熟への一歩というより 巻き返しへの一歩
なんか前向きでいいね 大人になるっていうのも
ただ 血が出ただけなのに……
ピンポン。
──家のチャイムが鳴った
誰だろう
そろっと一階に降り、誰か確かめる。
インターホンのモニターに映っている姿……
担任の 高原だ
体悪くして入院したってなにかで見たけど
……退院したのか
……なんだろう
……こわい
こわさは無くなってきてるかもとか言ってたのに
こわい
高原こなくていいのに
なんでくんの
もしかして
血が出たことバレた?
うそ?
なわけないか
じゃあなに……
せっかく血が出て
大人になって
ちょっとは前向きになれたのに
……もしかして
これ
巻き返しの二歩目?
はやっ くるのはやっ
もうちょっと後でもよかったのに
やっぱ出なきゃいけないよね 親も姉もいないけど
ピンポン。
また鳴った
いることバレたか
こわい
正直こわい
こわいけど
おそるおそる
インターホンの通話ボタンを押そうとして、やめる。
だめだ 普通に出たらただの大人だ
私は可笑しな大人
可笑しな大人がする巻き返しの二歩目
ここから走って勢いよく玄関開けて先生にタックル? 回し蹴り?
だめだめ
相手はもう老人の域な上に病み上がり 打ち所悪くて死んじゃうかもでしょ
私が目指すのはそういう可笑しさじゃないし
じゃあ手料理でも振る舞う?
得意料理はロールキャベツ
嘘
料理全然できなかった
お茶かコーヒーでも出す?
それじゃあ普通だよね
そうだ
血が出たから
ケチャップ全身塗って
先生 血が…… て出てみる?
それもそれで普通に心配されて終わりそう
──あ? 先生がモニターから消えた
もしかして 帰った?
うそ
巻き返しの二歩目
なんにもやってないのに
これじゃあただ居留守を使っただけ
そんなんじゃ ただの大人というより ただの子供
──私は、家の廊下を走っている自分に気づいた。
──勢いよく玄関を開けていた。
──道に出て、「高原先生!」と坂の下にいる先生を呼び止めていた。
私は なにがしたいんだ
白髪交じりの先生の頭が、ゆっくり振り返った。
「先生! 私、明日から学校行きます!」
え? 私 明日から学校行くの?
私と目が合っていた先生の目がにこっと垂れさがって、うんとうなずいた。
「……
……榊さん 待ってるね か
不登校になっていた私
だめだ これじゃあただの大人だ
「あ、でも、私は可笑しな大人です。と言いますか可笑しな大人を目指します。先生、それでもいいですか?」
少し痩せたかもしれない先生は一旦、考えるような素振りを見せたあと、私の目を見てうんと頷き、こけた頬を打ち消すくらいのにっこり笑顔で、「いいよ」と親指を立ててくれた。
えほんとに? いいの先生? そんな笑顔する人だったっけ
もしかして先生も 血が出たから 巻き返しの二歩目中?
なんてわかんないけど
ありがとう先生 けっこううれしいです
でもね先生 今勢いというか
無自覚で学校に行くと言ってしまっただけだから
明日さっそく学校休んじゃうかもしれないけど
いいよね先生
私 榊美桜は 可笑しな大人を目指すんだから
ただ、血が出ただけなのに……。 文久三年生 @curve
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