カクヨムからの挑戦状

水城みつは

カクヨムからの挑戦状

「しけんゆきつまさきかえるばらいろほね10はねめいれい……っと」


 私立御神座みかぐら学園高等学校、通称、御神座みかぐら学園の旧校舎の端、文芸部室で俺は机の上に広げた名刺大のカードに新しく発表されたお題を書き込んでいた。


さくら先輩、遂にナオ先輩も占いに目覚めたんですね!」

「いや、葉月はづきちゃん、あれは占いとかじゃなくて、直のいつもの奇行だから」


 葉月と桜が何やらこっちに注目している。


「最後のお題は『10』『羽』『命令』っと。ん、これか? これは、とある投稿サイトからの挑戦状だな」


「挑戦状って、いつもの小説投稿サイトですよね。時々先輩がイベントだー! って言って執筆してるやつ、そこからの挑戦状ですか?」


 葉月の双子の姉である紅葉もみじが読んでいた文庫本から顔を上げ、俺の手元を覗き込む。


「『つま先』に『骨』……猟奇殺人事件の謎解きか何かですか?」


「謎解き、そう、謎解きだ。我がミステリー作家人生を賭けた謎解きと言っても過言では……いてっ。ちょっ、桜さん、どうして叩くのかなぁ」


「誰がミステリー作家よ。そもそも直はミステリー小説書いてないじゃない」


 桜がピラピラと『羽』のカードを摘んで言った。


「ちっ、ちっ、ちっ。甘いよ桜君。実は今回のお題はミステリージャンル縛りで投稿している。つまり、俺はミステリー作家と言っても過言では……って、痛い、痛いってば」


「前は文字数縛りとかしたてよね。まあ、直の戯言は置いておいて、これって只のお題じゃないの?」


 『試験』『雪』  『つま先』

 『帰る』『薔薇色』『骨』

 『10』 『羽』  『命令』


 桜が並べられた9枚のカードを丸めた雑誌で指した。


「うーん、まあ、只のお題と言えば只のお題なんだけどね……」


「直先輩、それならどうしてミステリー作家人生を賭けることになるんですか?」


 あきれたような皆の目が痛い。


「そもそも、このイベントは七週、つまり、七回あるんだ」


「ん? 直、このカードって九枚あるんだけど?」

「あ、ホントですね。直先輩、どういう事ですか?」


「七回目に突然三つもお題が発表されたんだよ。それで俺は気付いてしまったんだ。これは挑戦状だと……」


「ふーん、それで、それが先輩の短いミステリー作家人生とどんな関係があるんです?」


 葉月がカードを集めてシャッフルしながら興味なさそうに言った。


「短いは余計だ。まあ、この九つのお題が本当に挑戦状であり、そこに隠された謎があるかはわからない」


「まあ、そうですよね。小説のお題としてはかなり妙なものも多いですね、これとか」


 めくられた一枚は『つま先』だった。


「……それで、この謎に挑む、つまりはミステリー小説を書くわけだが、もし本当に謎があった場合、謎が解けていればよいが解けていなかった場合……」


「ああ、つまりは直は謎も解けないミステリー作家の烙印を押されるわけね。まあ、今もミステリー作家以前に似非作家ぐらいでしかないから問題ないんじゃない?」

「ですよね、そもそも直先輩ってソシャゲ感覚で小説投稿サイトのイベントに参加してますよね」

「時々貰えると噂のプレゼント目当てでしたっけ、そう言えば当たったって聞いたことないですけど、どうなんですか?」


「ちょっと、君たち俺の事をディスってません? まあ、そんな訳でこの謎を解かなければならないので、皆も一緒に考えてください、お願いします」


 潔く頭を下げて用意したカードやメモ用紙を皆に配る。


「流石は直先輩、ミステリー作家としてのプライドも矜持もない」

「それで、今のところ何か分かったの……って分かってるくらいなら私達に聞かないか」


 桜が深い溜め息をつくが、全く持ってその通りなので何も言い返すことはできない。


「10はこのイベントが十回目だからなんだけど、それに意味があるのかどうか」


「先輩、縦読みとかアナグラムとかは……あ、やってますね。『しゆつかばほ10はめ……』」

「『さくわやかちほこ……』、あー、もう、別に謎になってないってことで良いんじゃない?」


「それはそれで何だか悔しい。それに、それこそ諦めて実は……ってなったらダメージがでかい」


 なんやかんやと全員で頭を捻るが結論は出なかった。もっとも解答があるかと言われるとない可能性も高いんだが……。


―― ガララッ


 部室のドアが開き、顧問の菅林すがばやし先生が顔を出した。


「お前ら、そろそろ部室閉めるぞ! って、何だそれはビンゴでもして遊んでたのか?」


 『試験』『雪』  『つま先』

 『帰る』『薔薇色』『骨』

 『10』 『羽』  『命令』


「そ、れ、だ! 謎は全て解けた! この挑戦状はビンゴだったんだ……って事にしとこう。今回は全参加ボーナスとかなかったからサプライズでビンゴで賞品とか良いと思わないか?」


「はいはい、どうせ直みたいなのばっかり参加してるから大半はコンプリートしてて意味ないんじゃない?」

「とりあえず、先輩のミステリー作家も店仕舞いして帰りましょう」

「締め切りも実質今日までってことは直先輩の完全敗北でQ.E.D.です」


 あきれたような桜達の視線から目を逸らしつつ帰り支度を進める。


「ふーん、お題で執筆ねぇ――」


―― じゃあ、お前ら『試験』前だからとっとと『10』分以内に『羽』のように軽やかに『帰る』んだ、これは『命令』な。あぁ、『雪』予報も出てるから滑って『つま先』の『骨』を折るようなことすると『薔薇色』の青春が台無しだから気をつけろよ。


「――ってことで部長、後は任せたぞ」


 先生はヒラヒラと手を振って戻っていった。

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