第10話
その日以来、世界に日没と日の出が帰ってきた。
しかし、いくら無理やり普通のタイム間で動いていたとはいえ、急遽戻ってきた白の世界は人々に混乱を与えた。睡眠が浅くなる人が増え、急激なアクセス増加によって世界中のネットワークに不具合が生じた。
何よりも深刻だったのが、人々がしばらくサングラスをつけて生活をしなければならなくなった、ということだ。
目に直接的な影響は及ぼしていない、という見解があったものの、世界が元通りになった時に生じる脳の機能障害まではその計算に入っていなかったみたいだ。
(……ちゃんと、朝だ)
ベッドの上で体を起こし、迷わず眼鏡を手に取ってカーテンを開ける。
なぜか私は、翌日の朝から元の世界に順応することができた。おそらく金烏の光があまりにも強すぎたため、そちらに適応したのだろう。
(……)
ぼんやりとした意識で、棚の上に置かれたボロボロのバレエシューズを見る。
金烏が旅立った後、空から降ってきたのは羽ペンではなく、かかとがつぶれたバレエシューズだった。経験者にしかその正体は見抜けなくなるほど原型を失っており、何度水洗いをしても落ちない汚れがあちらこちらにある。
そんなバレエシューズを見ていると今の自分に自信を持てと言われているような気がして、久しぶりに迎えた朝以来、新たなルーティーンとして組み込まれた。
改めてネットで情報を見ると、金烏は空想上の生物で、中国の神話に出てくる太陽に住むカラスらしい。その時は何を焦っていたのか、その文言を見落として勝手にロマンを感じていた。まあ、あれが仮に夢や幻覚だったとしても、少なくとも私の中で真実であればいいのだ。
「……出かけよう」
かつては長らく引きこもってちまちま仕事をしていた私に、最近生まれた新しい趣味は朝の散歩だ。別にあの金烏に再会することを期待しているわけではない。むしろ、あの鳥には健やかに生きていてほしいと思っている。
玄関のドアを開ける。白んだ空のどこにも影はなかった。
でも、あの鳥ならきっと大丈夫だ。
もし羽ばたく空を失ったとしても、また自由に飛べる空を探すだろうから。
黒天井による閉塞された世界を見上げて~何者でもない鳥と私~ 時津彼方 @g2-kurupan
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