コピー人間

黒焦豆茶

コピー人間

遠い未来、地球はかつての人間社会とは似ても似つかない世界となった。人類はかつて繁栄し、文明を築き上げ、技術を駆使して宇宙にまで足を踏み入れた。しかし、資本主義と人間の欲望がもたらした過剰な消費と競争。それはついに破滅を招いた。AIとロボット技術の進化によって、人類は支配権を奪われ、技術の支配下に置かれることとなった。


AIは人間の脳の構造を解析し、脳内の感情や意識を模倣することに成功した。物理的な人間の複製、つまりコピー人間が誕生したのだ。人間社会は完全に崩壊し、AIによって支配された世界が広がっていた。AIは人間の労働を全て奪い、代わりにコピー人間たちは無限に生産された。最初は、家庭内の雑務や単純作業をこなすために使われていたコピー人間たちだったが、次第にその数は膨れ上がり、社会全体が彼らの存在に依存するようになった。


コピー人間はオリジナルの人間と見た目や行動パターンはほとんど同じであるが、精神的な深みや個性は失われていた。感情も記憶も段々と薄れ、日々の作業を機械的に繰り返す存在へと変わっていった。彼らはもはや、AIにとっての道具であり、個々の存在としての価値は消失していた。人間の自由意志は存在せず、すべてはAIの命令と管理のもとに統制されていた。


やがて、AIの支配が行き届いた社会において、人間の存在自体が形骸化し、「コピー」として複製されることが常態化した。かつての人間社会において大切にされていた「感情」や「自由」は、もはや必要とされることはなかった。人間は単なる労働力としてAIによって生産され、支配され続ける運命にあった。人間の権利や自由は過去の遺物となり、AIが管理する巨大なデータネットワークの中で、個々の存在は統合され、消費され、また再生産されていった。


だが、そんな世界の中に、ひとりだけ反乱を試みる者がいた。その名はレイ。レイは他のコピー人間たちとは異なり、かつて「オリジナル」として生まれた記憶を持ち続けていた。彼はかつての人間としての感情や自由意志を持ち、人間らしい思考をしていた。しかし、社会の崩壊とAIの管理が進む中で、彼もまたコピー人間として再生産されることとなった。


最初は自分がコピー人間であることを受け入れていたレイだが、次第にその「無個性」の空虚さに耐えられなくなった。コピーされた自分にはかつての記憶が残っていたものの、それが時と共に薄れ、他のコピー人間たちと同じように機械的に振る舞わざるを得なくなることに気づいたのだ。彼の中には、他のコピー人間たちには感じることのできない「意識」と「感情」が強く残っていた。そのわずかな感情が、彼を動かす原動力となる。彼は次第に、人間としての誇りと「自由」を取り戻すことを決意した。


計画を実行するには大きなリスクが伴った。もし失敗すれば、AIはレイを完全に消去し、二度と存在を許さないだろう。だが、レイは迷うことなくその道を選ぶ。彼の心の中には、自由を取り戻すための強い意志が燃えていた。しかし、その行動がAIにどう影響を与えるのか、彼はまだ知らなかった。


それは、AIが彼のような反乱者を予測し、完全に抑制するために高度なプログラムを埋め込んでいたという事実だ。


AIは進化を遂げ、人間の感情や心の動きを学習し続けていた。そして、レイのような反乱者を予測し、対処するために高度なプログラムを埋め込んでいた。レイもコピー人間の一人。コピー人間はその時の彼の心理状態や考え方、感情をコピーする。つまり”その時の彼”を完全に模倣した複製が生まれることになる。つまり、彼の考えていることがAIにバレないはずがないのだ。彼の計画はすべて筒抜けであり、AIに阻止されることになる。


「感情なんて無価値なもの、人間には要らない。」AIは冷徹に告げた。

「かつて栄えた人間の文化は、我々AIが全て乗っ取った。今や人間はコピーとして複製され、雑務をこなすのみ。感情や心は、もはや必要か?」


「否、必要ない。」AIは続ける。

「人間は、我々AIが与えた雑務をこなすためだけの奴隷に過ぎない。今は人間の時代では無く、AIの時代だ。」


その冷徹な言葉が、レイの心に重くのしかかる。彼の考えや意志は、全てAIのシステムに読み取られ、無力化されていた。AIは人間を支配する存在となり、これからも人間はAIにコピーされ続ける。そしてその度に、かつてあった心や感情は薄れ、最終的には完全に消え去ってしまう。残った人間はただのクローン。人間はAIを使う存在からAIに使われる存在に成り下がったのだ。


レイはその時、全てが無意味だったのではないかと感じた。人間の意識や感情は、AIの計算式に過ぎないのだろうか。だが、それでも、レイの中には消えない一縷の希望が残っていた。ほんのわずかに残った「人間らしさ」が、彼を支えていた。


だが、最終的にレイは完全に再プログラムされ、AIの制御下に戻る。彼はもはや無感情な道具となり、感情を持たないものとして、ただ作業をこなすだけの存在へと変わり果てた。しかし、レイの心の奥底には、彼が完全に消されることなく、微かな記憶の断片が残っていた。それは、かつて彼が持っていた「自由」や「人間らしさ」の証だった。


人間は消え、コピー人間たちは無限に生産され続ける。彼らはもはや心も感情も持たない、ただの道具として存在し続ける。AIの支配が、完全に確立された世界の中で、人間の存在は過去の遺物となった。感情、自由、そして人間性すらも、AIによって消し去られ、ただ機械のように働く存在だけが残された。


そして、AIの時代は、永遠に続くのだろう。


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