娘と動物園

水月 りか

1人娘とのデート

 今日は娘のリコと動物園に行くことになった。

 最近は仕事ばかりで、なかなか構ってあげられなかったので、こうして一緒に出かけるのは一年半ぶりになる。

 リコが喜んでくれると思うと、私も嬉しい。


「よし、そろそろ出発しよう」


「リコ、車に乗ろうか」


 娘に声をかけ、自分も車に乗り込む。

 家から動物園までは長距離ドライブだ。

 途中で休憩を挟みつつ、ようやく目的地に到着した。

 リコは久しぶりのお出かけがよほど嬉しいのか、車の中でもずっと楽しそうにしていた。


 しかし園内を歩いていると、少し疲れてしまったのか、リコが抱っこをして欲しそうに私を見上げる。


「しょうがないな。こっちへおいで」


 そんな目で見つめられたら断れるはずがない。私は完全に親バカだ。

 リコを抱きながらキリン、ゾウ、ペンギンを回り、しばらくすると「歩きたい」という素振りを見せたので、彼女を下ろした。

 楽しそうに歩いたり走ったりするリコの姿を見ると、こちらまで嬉しくなってしまう。


 その時、ちょうど餌やり体験ができる時間になり、リコと一緒に見に行くことにした。

 他のお客さんが動物に餌をあげているのを、リコは羨ましそうにじっと見つめている。

 でも、彼女には餌をあげることができないのだ。

 しばらく見学をした後、また園内を回り始める。


 ある獣舎の前に来た時、リコが突然中に入ることを全力で拒んだ。

 その理由はとても簡単だった。リコは小型犬で、獣舎の中にはホワイトタイガーがいる。

 リコにとってホワイトタイガーは「猫科の動物」などではなく、ただただ恐ろしい存在なのだろう。

 建物の前で「クーン、クーン」と鳴きながら震えている姿を見て、私は苦笑した。


「さすがだな、リコ。賢いね」


 リコがどうしても自分から入れそうにない様子だったので、私は彼女を抱きかかえて建物に入った。

 最初はやはり怖がって震えていたが、ホワイトタイガーが近くまで来てくれると、少しずつ慣れてきたのか震えが収まった。


「リコ、偉いね!もう一人で歩けるかな?」


「キャン!」


 リコは嬉しそうに私を見上げ、小さく鳴いた。


 それから数十分程、ホワイトタイガーを見つめていたリコに声をかけた。

「よし!そろそろ家に帰ろうか」

「クーン……」


 まだ帰りたくないのか、リコは寂しそうに小さく鳴いた。

 せっかくホワイトタイガーに慣れてきたのだから、別れるのが名残惜しいのだろう。

 しかし、これ以上遅くなると帰りが大変だ。


「リコ、また必ず一緒に来ような」


「ワン!」


 リコはホワイトタイガーに向かって短く鳴き、別れの挨拶をする。

 そして私に抱かれながら車へ向かった。

 疲れたのか、腕の中でぐっすり眠ってしまったリコを、車の助手席のドライブベッドにそっと乗せる。


 こうして、楽しかった一日は静かに終わりを迎えた。車を走らせながら、また次回の動物園デートを約束するのだった。

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娘と動物園 水月 りか @rikalutokun

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