神様と一緒に転生したらインド神話の大英雄クリシュナだった件〜赤ん坊編〜

イーサーク

神様と一緒に転生したらインド神話の大英雄クリシュナだった件〜赤ん坊編〜

 多分、トラックか残業で意識を失ったんだと思う。

 気づいたら輝かしい光の世界で、神様が目の前に立っていた。


 ここまではテンプレ展開だろう。よく知らないけど。

 違うのは、ここからだ。


 その神様は、インド神話のヴィシュなんとかという神様だった。

 前世の世界で名前を聞いたことのある神様だったのである。


「申し訳ないことをした。その代わりに私と一心同体となって転生してあげよう」


 こんな感じだったことを言われて、気づいたら俺は人間の赤ん坊に生まれ変わっていた。


 赤ん坊の目から周りを見渡すと、俺はベッドにいる優しいお母さんに抱かれ、横から嬉しそうに微笑むお父さんと小さな男の子にじっと見られていた。


「わかる? あなたの名前は、クリシュナ。クリシュナよ。お父さんとお母さんの子よ。元気に育ってね」


 クリシュナ。赤ん坊の名前は、クリシュナだ。


 その名を俺は聞いたことがあった。とあるスマホゲーのプレイ動画を観ていた時に、ちらっと出てきて、ググったことがある。


 クリシュナは、インド神話の大英雄。神様の化身の一人。

 誰かさんの親友で、その敵をハメたり、呪ったりとイメージがちょっと悪い。


 まさか、そのクリシュナに転生することになろうとは。

 神様の悪い冗談ジョークだろうか。


 正直、俺はちょっと不安になってくる。

 両親とお兄さんはいい人そうだけど、俺はクリシュナとしてどんな人生を送ることになるのか。


 英雄クリシュナの人生を俺はよく知らない。

 ググったほとんどのことは、忘れてしまった。


 英雄だとしても、下手すれば人生ハードモードの可能性だってある。

 ギリシャ神話のヘラクレスとかいい例だ。十二の難行は地獄の連続である。

 あの女神様、キツすぎでしょ。


 神様、私の力をくれると言っていたけど、大丈夫かな――。


 そんなある日のことである。

 俺が揺り籠の中で眠っていた時に、お母さんが誰かを連れてきた。


「それでは、プタナさん。お願いしますね」

「はい、奥さま。お任せください。息子さんにお乳をたっぷりと差し上げますわ」


 なに、お乳!?

 どうやらお母さんは、乳母さんを連れてきてくれたらしい。


「はいはい、こんにちわ。いい子ですね~」

 乳母さんことプタナさんは、20代半ばぐらいの美人だった。

 きれいな母親だけでなく、こんなに美しい人のまで飲めるとは。


 ありがとう、お母さん。

 ありがとうございます、神――。


「――ククク、今から猛毒が入ったお乳を飲ませて、殺してあげますからね~」


 ――なぬ? なんですと?

 すいません。プタナさん、今、何て、おっしゃいましたか?

 なんか、とんでもなく物騒なことを、おっしゃったような?


「恨むなよ。これもあの方のご命令なんですから~」


 ……マジだー! マジでこの人、まだ赤ん坊である俺を殺す気だー!

 その時、俺はなぜかはわからないが、プタナさんの真の正体を見抜く。


 なんとプタナさんの正体は、醜い羅刹女だったー!

 羅刹とは、正確ではないけど、わかりやすく言うと、鬼の一種で、悪い魔族のことです。

 なぜかそんな鬼女が俺を殺そうとしている。


 チョット待って!? まだ赤ん坊なんですけど!?

 こんなボスキャラ出てくるの、普通もっと育ってからだよねー!? 

 ひどくない!? なんの鬱イベントなの、これ!? あの方って誰だよー!?


 しかし動けない赤ん坊の身では、為す術がなかった。


「さあ、私の毒の乳を飲んで、あの世に行きやがれー!」


 結構ですー! いやだー、やめてー!!

 助けてー、お母さーん、お父さーん、お兄ちゃーん。


 俺は赤ん坊みたいに泣きたくなった。

 なのに、赤ん坊は泣かない。嬉しそうに、笑い続けている。


 神様ー、助けてー!!


 そんな俺の願いも虚しく、プタナの禍々しい乳首が赤ん坊の唇に触れた。


 ――その瞬間である。


 俺は、宇宙にいた。


 頭の天辺から足元の下まで、星天が広がり、幾万もの星々が輝いている。

 圧倒的過ぎた。何て、大きさなんだ。


 なに言ってんだと思われるだろう。

 だけど俺は本当に、無限に広がる世界を実感していた。

 まさしく宇宙そのものを。


 そしてさらに信じがたいことに、この宇宙は俺の中にあった。

 まだ赤ん坊だったクリシュナの中に。

 無限の宇宙そのものが、小さな赤ん坊の中に存在していたのだ。


 この時、俺はクリシュナという存在を理解した。

 人間に転生した神そのものに、生まれ変わっていたことを――。


「なぬ!?」

 プタナが唸る。

 クリシュナは、プタナの乳を吸って、吸って、吸いまくった。

 プタナの生きるための生命力すらも。


「待て! 待てー! 離せ! 離しやがれー!!」

 プタナがクリシュナを引き剥がそうとする。羅刹女の恐るべき怪力がまだ赤ん坊の身を襲う。

 しかし赤ん坊は離れない。

 クリシュナの信じられない力が、プタナの生命力を吸い尽くそうとしていた。


「やめろ! やめろー! ぎゃあああアアアアアー!!」

 

 生命力を全て奪われたプタナは絶叫しながらぶっ倒れ、灰となって消滅する。

 何事もなかったように、クリシュナは揺り籠の中に戻って、可愛らしく笑い続けた。


 前世の俺の意識は、茫然自失する。

 ――マジだったよ。マジで神様に転生していたよ。

 赤ん坊の時からチート無双だなんて、クリシュナさま、マジパネェっす。

 

 それだけクリシュナのパワーは、圧倒的であった。

 前世の俺の想像力なんて、とてもとても及ぶものではない。

 まさに神さまだ。


 けど、謎は残る。なんであんな羅刹女なんかがやってきたんだ。

 まさか、あんな奴がまだ来るのかよ。


 そんな俺の心配通り、それからも刺客はやって来た。

 次のは、空の上からやって来た。


「ギャーハッハッハッハー! オレ様の名は、空飛ぶ悪魔サクトアスラだ!

 クリシュナよ! 今からお前を手押し車ごと潰し――ブへェ!?」


 しかし出落ちよろしく、クリシュナが謎のパワーで空中に蹴り飛ばしたテーブルが命中して撃ち落とされる。テーブルもパワーで元の位置に戻った。


 次の悪魔も空を飛んで現れる。

 そいつは嵐を起こしながら急降下してきて、外にいた家族のいる前で、赤ん坊の俺を空の上へと連れ去った。


「フフフフフ! クリシュナよ、私は、嵐の悪魔トリナヴァルタだ。あの方の命により、今からお前を下の地面にあるあの岩に落として――なに。おい、動くな!?」


 しかしクリシュナは例の圧倒的なパワーで、空中で悪魔の拘束を力づくで解き、逆に相手を捕まえる。


「おい、よせ! やめろおおおオオオオオオオオオオオオオオオ――ブギャア!」


 そのまま空中で真下の岩に投げつけて、トリナヴァルタを潰してしまう。

 その後、俺は何事もなかったように、家族の元に戻って喜ばせるのだった。


 ――これが赤ん坊のやることか。といわれんばかりだ。

 疑問に思うと、すぐにクリシュナのパワーが働いて、俺に真実を教えてくれた。

 なになに、カンサっていう悪い王様がいて、自分が殺されると予言されたから先に俺を殺そうとしてるって。


 なるほどね。いつか俺は、そいつに勝利することになると。

 そうとわかりゃあそんな奴どうでもいいや。勝ちたい時に勝てばいいもんね。


 脅威は残っているけど、俺はもう全く心配していなかった。

 これだけのパワーがあれば、どんな奴でも恐るるに足らずだ。

 そうとも。俺は既に、クリシュナのパワーに夢中になっていた。


 こんなパワーが自分自身のものになるなんて――神様、本当にありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様と一緒に転生したらインド神話の大英雄クリシュナだった件〜赤ん坊編〜 イーサーク @iisaakuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ