世、妖(あやかし)おらず ー歪受像機ー

銀満ノ錦平

歪受像機


 昔、よく深夜に起きることが多かった。


 両親は深々と就寝しており、突然目覚めてしまったせいでなかなか寝付くことができず、俺はまるで取り残されたかのような寂しさを覚えてしまっていた。


 そんな時は布団を被り、寂しさを紛らわしていた。


 布団の温もりがその寂しさを包みこんでくれたからだ。


 しかし…冬場はそれでもよかったが夏場はそうもいかない。

 

 薄い掛け布団でも汗をかいてしまい、仕方なく強く目を瞑ることでその寂しさをしのいでいた。


 いつの間にか寝れたらと強く念じながら…。


 そして朝になる。


 だから、時間の経過として考えたら解決はしている筈なのであるが…。


 それでもその時の自分だけ取り残されている寂しさだけは心に残っていった…。

 

 そして今日もまたあの寂しい夜が訪れた。


 いつもの様に目が覚めてしまい隣の両親を見るとぐっすりと何時もの様に就寝している。


 今日も暑く、掛け布団の中に入ることはしたくない。


 だから目を強く瞑り、時間が経つのを待った。


 その時、瞑っている目に微弱な光が入ってきたような気がした。


 親がトイレをする為に起きたのかと思ったがそれなら、もう少し強い光の筈である。


 俺は少し不安ながらも目を薄めに開け、光っている場所に顔を向けた。


 テレビだ。


 テレビが光っていた。


 消し忘れかもと思ったが…


 それなら光がずっと続いていたはずである。


 どうするか…迷った。


 消しに行きたいが何か嫌な予感がして覗き見る事にした。


 テレビ映像は、なにか映っていた。


 何かはハッキリとはわからなかった。


 薄目だったからだ。


 しかし、何か輪郭の様な物が見えた気がした。


 髪が長かった様な気がする。


 なびいているのか…それとも画面が崩れているのか…。


 どちらかは分からなかったが兎に角その時に映っていた者は女性で間違いはなかった。


 しかし…番組のカメラに映ってる感じでもなかった。


 なんというか…画面いっぱいにその女性の顔が映っていたと思う。


 しかし不思議な感覚にはあった。


 その時、何故か俺に向かって微笑んでいるというのが頭の中でその時は表情が浮かびがってきた。


 その微笑みはその夜の寂しさを払拭してくれた様な…そんな温かみを感じることが出来た…。


 なので俺は目を開けることにした。


 この温かみを信じて…。


 俺はゆっくりと細めていた目を開けた。


 確かにテレビ画面には女性の顔が画面いっぱいに映っていた。


 微笑んでもいた。


 その笑顔は…乱れていた…崩れていた…歪んでいた…。


 その顔を見た瞬間、温かみが一気に寒気になったと思う。


 たった数秒その画面を見つめていたと思ったが体感は数十分に感じてしまっていた…。


 テレビ画面に映っていた女性が最後に何か口を動かした所で画面が消えた。


 それ以降は、テレビ画面が勝手に光りだすことはなかった。


 俺もその日以降は寝付けが良くなり、深夜目が覚めることは殆どなくなった。


 今思えばそれは夢だったんだと納得するようになってきた。


 まだ小学生だったし、寝ぼけておかしい夢でも見たんだろうと…。


 しかし…最近、ふと寄った電気屋で最新式のビデオカメラがあったので手に取り覗いてみた。


 画面のレンズ越しに見えたテレビ画面に…あの時に見た光が映っていた。


 あの女性だ。


 乱れ崩れ歪んでいたあの微笑みを放つあの女性が…。


 俺は寒気と共に手に取ったビデオカメラを急いで戻し電気屋を離れた…。































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世、妖(あやかし)おらず ー歪受像機ー 銀満ノ錦平 @ginnmani

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