盗んだ骨を素揚げにする
砂塔ろうか
盗んだ骨を素揚げにする
僕が彼女の遺骨を盗んだことは、バレていないようだった。
盗んだのはあばらのあたりの長い一本。拾骨の最中に都合良く起きてくれたハプニングが奏功し、焼かれたてアツアツのやつを盗み出すことに成功した。
現在は車で帰路についているところだ。赤信号で停止した折、彼女が尋ねてくる。
「無事に盗み出せてなによりだけどそれをどうするの?」
彼女が尋ねてくる。僕は喪服として着ていったスーツのネクタイをゆるめて、軽く息を吐いて答えた。
「素揚げにでもしようかと思ってね」
「はあ?」
幽霊になった彼女は、自分の骨が食べられるという事態に困惑を隠し切れない様子だった。
彼女が僕の前に現れたのは数日前のことだった。夢の中で僕の名を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、翌朝、ベッドの隣に幽霊になった彼女が座っていた。
現代の幽霊には足があるらしい。彼女は五体満足の状態で、一見して生前と変わらない姿でそこにいた。
その彼女が言うには、三途の川の手前で追い返されて、しかし自分の身体に戻ることもできずにいたので、僕を頼ったのだという。なんでも、現世の霊はそのままの状態では存在できず、死後1ヶ月半程度——目安として49日でどこへも行かず消滅してしまうらしい。
つまり、そのリミットを迎える前にどうにかしなくてはならない。そう、例えば生き物の身体に憑依させるとか。
「————だから、君の骨を食べることにしたんだ」
「ごめん。意味がわからない」
「え?」
帰宅してさっそく、僕は骨の調理にとりかかろうとしていた。スーツを脱いでエプロンをつけて、盗んだ骨をまな板の上に置いて——そこで彼女が待ったをかけてきた。
「なんでそうなるの? なんで私の骨素揚げにするの? 酒のツマミみたいで嫌なんだけど」
「嫌がるポイントそこなんだ。いや、医食同源って言葉あるじゃん?」
「食べたものが薬になる的なやつね」
「そう。目が悪ければ目を食べる。足が悪ければ足を食べる。呪術的な考え方ではあるけれど、人間の身体は食べ物から作られるんだから、発想としてはあながち間違いでもない」
「そうね」
「だから、君の骨を食べれば君の骨が僕の身体の一部となって、君の魂が僕に憑依しやすくなるかなって」
「骨一本で?」
「え?」
「たった骨一本で私の魂を憑依させられるようになると思ってるの? 仮にそれで私の要素を身体に取り込めたところで、99%以上他人の身体なんですけど?」
「…………足りなかったかな」
「逆になんで足りると思うの。ていうか、それやるなら肉も食べた方が良いんじゃない?」
「い、いや! それはいけない」
「どうして?」
「カニバリズムは色々とヤバい病気の原因になるから」
「気にするとこそこなんだ。サイコパスっぽいのに」
「それ、サイコパスへの風評被害じゃない? いや、君の身体がちゃんと畜産農家の人にちゃんと品質管理されてるならそれもアリだったんだけど」
「そんな生前だったらこうして霊になってることもなかったでしょうね」
「それに、遺体の損壊はリスクが大きすぎるしね。だから、骨」
「ていうか、骨って大丈夫なの? その、病気とか」
「一回焼いたやつだし大丈夫じゃない? まあ、病気になったらそれまでってことで」
「私、病気になってすぐ死ぬかもしれない人の身体に憑依するの……?」
「それじゃあ、疑問も解消したところで調理を始めるよ」
——と、フライパンに油を注ごうとして。
「待って」
またしても待ったをかけられた。
「ん?」
「どうしても素揚げじゃなきゃ駄目?」
「ラーメンは煮込む時間がかかるから……」
「あなたの骨料理のレパートリー素揚げかラーメンかしかないの?」
「骨料理ってジャンルは知らないけれど、骨っていったらそのくらいじゃない?」
「どうせなら、もっと消化吸収しやすい方が良いと思うのだけど」
「たとえば?」
「粉砕して、ハンバーグに練り込むとか」
「人間で作るハンバーグなのに人間要素が肉じゃなくて骨の方なことある?」
「ツナギとして使えそうじゃない? 勘だけど」
「いや、ボロボロになってまとまらないでしょ……しかもジャリジャリしそうだし」
「じゃあ泥団子」
「じゃあじゃないよ。ジャリジャリ要員増やしてどうするんだよ。ていうか泥団子って普通は食べ物じゃないんだよ」
「じゃあたこ焼き」
「さっきから丸いもので連想ゲームしてる?」
「というか、骨一本で一品しか作らないっていうのはもったいないと思わないわけ?」
「……作れと? 骨料理を複数」
「複数。三日くらいちょっとずつ食べたほうが吸収もされやすいだろうし」
「三日て。レパートリーどうすんだよ」
「一日目は骨粉入りお好み焼き、二日目は骨粉入り広島風お好み焼き、三日目は骨粉入り関西風お好み焼き……みたいな」
「全部お好み焼きだなあ。ハンバーグとたこ焼きどこ行ったんだよ」
「その二つは文句言うから……」
「で、最初のお好み焼きは広島風? 関西風? どっち?」
「そこはお好みで」
「やかましいわ。……君、こんな性格だったっけ」
「死ねばちょっとくらい性格変わって当然でしょ」
…………しかし、このままではいつまでたっても骨の調理に取りかかれない。
ここは折衷案でいこう。
「わかった。なら、骨を折る。半分は粉にして、もう半分は素揚げにしよう」
「その素揚げに対する熱意はなんなの? ……まあ、いいわ。それで手を打ちましょう」
だって骨みたいな歯応えありそうなやつはお酒のツマミに丁度良さそうだし————とは口に出さなかった。
◇◇◇
素揚げを食べてから三日が経過した。最後の骨粉入りお好み焼きを食べ終えて、一息ついていた、その時。電話がかかってきた。公衆電話からだ。
「はい。もしもし」
『——くん?』
彼女の母親からだった。
『スマホ家に忘れちゃってね、公衆電話で掛けてるの。これ、あなたにも急いで話さなくちゃって思って——あの子、生きてたのよ!!』
「……? え、だって——」
『いま、代わるわね』
『ごめん、私……いままでずっと、監禁されてて……なんでか、死んだってことにされてて、わけ分かんないんだけど……生きてる、から。私、生きてるよ』
あれ。じゃあ、ここにいるのは————俺が、この三日間食べた骨は、
「………………じゃあ、
一体、誰なんだ?
(了)
盗んだ骨を素揚げにする 砂塔ろうか @musmusbi
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