女神様から力をもらったので、世界を救う旅に出たいと思います
新名千歳
序章 それは、冒険の始まり
第1話 神託
_____遥か昔、まだ世界に無数の国や街が栄え、人と神が寄り添うように生きていた時代。
神々はその奇跡的な力で人々の生活を豊かにし、人々はその恩恵に感謝し、祈りを捧げていた。
誰もが笑顔に満ち、希望にあふれた日々。この平穏が永遠に続くと思われたが、それを脅かす存在が現れた。
漆黒の影──『魔獣』と呼ばれる恐怖の存在。
魔獣は圧倒的な力で次々と村や町を滅ぼし、人類を絶望の淵に追いやっていった。
そんな中、神々は一人の勇者に力を授ける。勇者の剣は大地を裂き、空を割るほどの力を持ち、やがて彼は仲間と共に魔王のもとへたどり着いた。
勇者と魔王の戦いは三日三晩続き、ついに魔王は討たれる。しかし──満身創痍の勇者もまた、魔獣の残党に追い詰められ…。
「たとえこの身が朽ちようと、次の英雄が現れる。必ず──!」
勇者と魔王。両者を失った戦いの果てに、人類は一時的な平穏を手にした。だが、それは戦いの終わりではなかった。この物語を終わらせるのは_____
「俺も……俺が英雄に……!」
興奮気味に本を閉じた少年が夢中で叫ぶ。そんな彼を、隣の少女──ニナが苦笑いで諭す。
「はいはい、落ち着いて。そんな調子じゃまた倒れるよ?」
「大丈夫だって!」
勢いよく立ち上がったストラだったが、その身体がぐらりと揺れて倒れこんだ。急速に近づいてくる地面。これから襲い来る痛みにギュッと目をつむり衝撃に備える。
しかし、訪れたのは柔らかで暖かな感触。
「ほら、言ったとおりでしょ……もう少し自分を大事にしなよ」
少し呆れた様子のニナが、彼を抱きかかえるように支えていた。
「別に、大したことないし!立ちくらみくらい誰だって___」
「はいはい。じゃあ、もう少ししっかり歩けるようになってから言おうね、未来の勇者様?」
そう言って額を軽く小突かれる。相も変わらずじんじんと痛む額を押さえながら、抗議の視線を向ける。が、そんな抵抗もむなしく頭を撫でられる始末。こうして抱きしめられるのも、頭を撫でられるのも嫌いではない。嫌いではないが、恥ずかしさが勝ってしまう。若干の名残惜しさはあるが、その腕から離れる。少しだけくらりとする感覚があったが、今度は倒れるようなへまはしなかった。
「そろそろお祈りの時間だろ?早く行こう!」
ふらつきそうになる体を叱咤し、歩いていく。そんなストラの横を、軽やかな風が通り過ぎた。日の光に照らされて、きらきらとした銀の風が。楽しそうにくるくると回り、その度に銀色の輝きが揺れる。そんな姿に見惚れていると、どこかいたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを振り向いていた。
「そうだね、行こうか。ゆっくり、一歩ずつ」
もう大丈夫だし!?少し息を切らせながら隣に並んだストラは、そう息巻く。そんな少年のことを時折からかいながら、二人は並んで歩いていく。今度は置いていくことはなく。
_______
「ほらほら、そんな怒んないで」
「怒ってない!」
もうすぐ目的地の教会に辿り着く、それまでの短くない道すがらのことを思い、膨れるストラ。辺鄙な村であるこの村では、誰もが顔見知りといってもいい。そして、二人のことを知らないわけがない。
「皆も悪気があっていってるわけじゃないんだからね?」
諭すようにいうニナの言葉に、頭では分かっていても納得できずにいる。
『おう!ストラっ今日も二人でいつものかい?無理すんじゃねぇぞ、お前は弱っちいんだからよ』
『ストラ、今日もちょっと顔色がよくないね。無理せず、ニナちゃんを頼るんだよ?』
『今日もまたニナにお世話されて…クソ、うらやましい…!』
いくつか聞き取れない部分もあったが、軒並みはそんなものだ。
弱いことも、全部分かっている。分かっているけど_____
「好きでこんな体に生まれてきたわけじゃない…!俺だって…」
「…ストラ」
村人が言っていることに間違いはない。少し走れば息を切らし、気を付けていないとすぐに体調を崩してしまう。…その度にいつも助けてくれたのが、ニナであった。いつからかは分からない。しかし、気づけばいつも隣にいて、支えてくれていた。
…控え目に見ても、ニナは綺麗だ。ぱっと目立つようなものじゃないけど、ふと目を惹かれてしまうような、そんな魅力があった。それと、ここらだと珍しい銀色の髪が、より一層その魅力を引き出している、気がする。
地味で、何も持たない自分と魅力にあふれるニナ。傍から見れば、つり合いが取れてないように見えるのだろう。実際、自分自身そう思っている。だから、余計に辛くなる。だから余計に、みじめになる。
「そう、だよね。ごめん」
本当に、嫌になる。どうしてこんなにも自分は馬鹿なのだろう。こうして隣にいる少女を困らせて、余計にみじめな思いをして。だから、そんな気持ちを振り払うように言った。
「ほら、もう教会に着くんだし、そういうのはいいだろ?早く済ませちゃおう」
自分からこんな雰囲気にしておいてよく言う。心の中で毒づく。そんな苦い思いを噛みしめながらも、一足先に中へと入っていく。物心つく前から通っていた、この教会に。
この国では、至る所に教会が建てられている。物語の時代から存在しているとされる由緒正しい大教会もあるが、辺鄙なこの村にあるのはこじんまりとした、比較的新しく作られたものだ。
こんな大変な時に、よくもまあこんな物を建てられるなと思うものだが、これが人々の拠り所になっているのだから間違いではないのだろうか。
教会というのは、ただ祈りを捧げるための場所ではない。ここでは、『女神様からの神託』を授かることができるのだ。もちろん、全員がいつでも授かれるものではない。しかし、その神託を受けて実際にその恩恵に預かる者は少なくない。
かつての勇者と同じように。
(なーんて、そんなのあるわけないのにな)
体調が優れないとか、そういう理由がない限りストラはいつも祈りを捧げていた。しかし、神託を受けたことは一度もなかった。
だから、こうして祈りを捧げるのもほとんど惰性で。今日も何事もなく終わる
はずだった。
『………ようやく、見つけた』
頭の中に響く声。神秘的な響きのそれを耳にしてストラは目を見開いた。祈りの時間が終わるはずだった静寂は、一転して異様な空気に包まれる。
『貴方には秘められた力がある。それを解き放てば、世界を救うに足る力を得られるでしょう。ですが、この力は貴方には手に余るもの』
それでも、この力を手にしますか?声の主は厳かに告げる。目の前の人物がだれかなど知るよしもない。しかし、どんな存在なのかは理解していた。静かに首を横に振り、告げる。
「……構わない。力が欲しい。どんな代償を払ってでも!」
哀れまれる日々に別れを告げるために。守られるだけの弱い自分を変えるために。
『ならば、これを手に取るのです』
光り輝く物体が浮かび上がる。美しく輝くそれは、しかし触れるのを躊躇わせる『何か』を感じさせた。あれだけ息巻いていたのに、いざ目の前にして尻込みする自分自身の弱さに嫌になる。
これまで何度もくじけそうになった。村人たちの何気ない言葉さえ、胸に刺さる。無力な自分が恥ずかしくて、情けなくて、それでも……弱い自分を変えたい。
「守られるだけの俺じゃ、駄目なんだ……!」
彼は拳を握りしめる。いつも助けてくれるニナに、少しでも応えたい。このままでは、彼女に守られるだけの存在で終わってしまう。
「だから……お願いだ、俺にも……力を……!」
強く握りしめた拳が震える。まだ残る腕の震えを無理やり押さえつけ、ストラは手を伸ばす。そして、その手が触れた瞬間、閃光と共に全身を焼き尽くすような激痛が襲った。指先から腕、全身へと燃え広がるような熱。骨が砕け、内臓が引き裂かれるような感覚。意識が闇に呑み込まれる。
痛い、痛い、痛い!
ただそれだけで、何も考えられない。もがくこともできず、ただうめき声をこぼすのみ。そんなストラを眺めていた存在は告げた。
『どうか、耐えるのです。そして英雄となり、使命を果たすのです』
その声がどこか歪んだ響きを伴いながら遠ざかっていく。やがてストラはそのまま意識を失った_____
女神様から力をもらったので、世界を救う旅に出たいと思います 新名千歳 @ripper
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