第35話

「お、クライゼン。なかなか早い帰りだったな」

 無機質な灰色のコンクリート壁と鉄格子で覆われた牢屋の中、硬いベッドの上で寝転んでいたアルドールは看守に連れられ同じ牢屋へと入れられたクライゼンのを見て喜びに満ちた場違いな声を上げた。

「ただいまアルドール」

 クライゼンはそういうと少し微笑んだ。その表情は少し疲れているようだったが何かを成し遂げたような誇らしげな様子だった。アルドールは彼女の顔を見てニヤリと笑う。

「事件は解決したのか?」

 アルドールのその言葉にクライゼンは元気よく首を縦に振った。そしてアルドールと別れた後に何があったのか、そして聞き得た話を全てアルドールに話して聞かせた。


「なるほどな。まさかフェルナンドの母親も殺されていて、自殺したのは偽物だったなんてな。だが結局自殺した原因はなんだったんだ?」

「多分だけど自殺じゃなくて偽物も殺されたんじゃないかな?でもここから先は警察が仕事してくれるよ」

 事実、クライゼンが暴いた真実はクララを通して警察を動かしていた。その真実のインパクトはあまりに大きく、もはや権力によって揉み消せるものではなかった。

「それでいつ私たちはここから出られるのだろうな?」

 灰色の天井を見つめながらアルドールがつぶやく。

 彼女はかれこれ数日もの間、不味い牢屋飯で我慢してきたのだ。我慢の限界はもう近かった。

「多分すぐ出られるよ。ほらこの足音は…」

 クライゼンがそう言ってるうちに薄暗い廊下に響く足音はどんどんと大きくなっていく。

「アルドールさん!クライゼンさん!!釈放ですよ!!」

 鉄格子にしがみついてきてそう口にしたのはクララだった。走ってきたのか髪は乱れて息が荒くなっている。

 そして彼女に遅れて刑務官がやってきた。


 そうして二人は塀を出た。久しぶりの太陽の光にアルドールは目を細めた。

「やっぱり太陽はいいな」

 彼女は少し寂しげな表情でそう言った。

「アルドールの故郷は雪で覆われてたんだっけ?」

「あぁそうだな」

 アルドールは自分の過去を滅多に語らない。クライゼンが知っているのは彼女が雪で覆われた大陸の出身であることぐらいだ。彼女がなぜ旅をしているのかも、そしてなぜ始めたのかも知らない。


「車、お待たせしましたー!」

 車の窓から顔を出したクララが二人に手を振っている。彼女らはクララが持ってきた乗り込むと、自動制御された車はゆっくりと加速していき都心部へと向かうのであった。

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アルドールとクライゼン 直治 @Naochi-Yot

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