世紀の発見

浬由有 杳

短編創作フェス 第6回お題「骨」

 心地よくむっとした曇天の下で、ようやく開催されることとなった第〇○○回「古生物学会国際フォーラム」。


 この種の会合は、その分野の専門家たちのみで粛々と行われるのが常である。  が、今回、開催地となる湖畔では、古生物学者は言うに及ばず、国外の畑違いの研究者や政治家、はてはジャーナリストまでが勢ぞろい。ここ近年、例にないほどの規模と化していた。


 それもそのはず。

 噂が事実ならば、現代文明が始まって以来の世紀の大発見が発表されることになる。


 彼らの多くは、期待に胸を躍らせ、時には足をもつらせそうになりながらも、できる限り急いでこの会場へやってきた。

 この世界の創生に関わる神話。おとぎ話に過ぎないと思われてきた古代文明。それらの伝説に纏わる何らかの事実が示されることになるのかもしれないと予想して。


 幾度もの苦難と失望を繰り返しながらも、<創造主の都>の伝説を信じ、発掘を繰り返してきた研究者が帰還したらしい。彼が率いる第8次発掘隊が、つい先日、とうとう、彼の持論を証明する遺跡を発見し、貴重な遺物や化石を持ち帰ったのだ。


 議長が上半身を動かして、観客すべてが席に着き、拝聴姿勢になったのを確認して、開会の辞を述べた。

 お偉方や来賓の祝辞が何とか終わると、一同が待ち受けていた研究者自身が登壇した。

 早速、身体を起こし、持参した箱を演台に載せる。細心の注意を払いつつ、棒状のモノを三本取り出し、一本ずつ翳して見せた。もう一方の手でパブリックビューイング用の大型スクリーンを操作する。


『これが今回の発掘で発見した化石の一部です。スクリーンには、採取した現場が映っていますので、併せてごらんください』


 会場が一斉にざわめいた。


『このように硬い特殊な層に包まれていたおかげで、ほぼ完全に原形が残っているモノもいくつか入手できました。分析した結果、主成分はリン酸カルシウムとタンパク質であることが判明いたしました』


 一瞬の静寂ののち、広がった特大のどよめきに、彼は満足げに頷いた。


『そうです。これは<骨>なんです。生物学者が断言しました。脊椎動物に属する生き物の背骨の一部に間違いないそうです』


『脊椎動物だって!?伝説の<創造主>が魚類と同種の下等生物だったと?』


 驚きのあまり、立場も忘れて、議長が触角を大きく震わせた。


『まだ断言するつもりはありません。ただ、この星を、暖かな豊穣の地にしてくれた<創造主>は脊椎動物だった可能性があるということです』


 その言葉は、1対の目と触角、4対の足を持ち、骨も肺もない緩歩動物クマムシから進化した彼らにとっては大きな衝撃だった。


 俄かには信じがたい考えだった。

 放射能に塗れ、表面面積の8割以上が湿地帯で、平均50℃を超えるを作り上げてくれた古代文明が、脊椎動物なんかによって築かれかもしれないなんて。


 スクリーンに映し出された発掘現場風景。

 そこにあるのは、ところどころ骨らしきものが見える乾き切った黄ばんだ土壌。土に食い込んだり、散らばったりした金歯や指輪などの装飾品の残骸。


 そして、地表近くに埋まっているのは、歪んだ巨大な金属の塊。その表面には『核シェルター』というが刻まれていた。

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世紀の発見 浬由有 杳 @HarukaRiyu

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