さあクッキーを作りましょう

幸まる

私の理想の一日

「お母さん、これ、またいっぱいにしておいて欲しいな」


エッセイ企画のお題、“理想の一日”について考えていた時に、そう言って次女に渡されたのは、からのプラスチック容器でした。


ヒヨコの絵が描かれた、赤い蓋の容れ物。

確か、ゲームセンターのクレーンゲームで手に入れた物で、元々は卵ボーロが入っていたのです。

見た目が可愛く、大きさもちょうど良いので、空になった後、クッキーの容れ物として使っています。


私の趣味はお菓子作り。

時々クッキーを作りたくなると、その時にある材料で焼き、出来たクッキーをこの容器に乾燥剤と共に入れておくのです。

オーブンの天板いっぱいに焼くと、大体この容器がいっぱいになるのもお気に入りポイント。

私はその時の気分で色々なクッキーを作っては、その容器に入れておきます。

すると二人の娘は、おやつの時に出して食べたり、小腹が空いた時に一、二枚取って行ったりするのです。

もちろん私も摘みます。

時々、旦那さんとクッキーをお供にコーヒーを飲んだりも。


そうして、中身が少なくなると、時間のある時に作ってまた補充するのでした。



さて、今回はどんなクッキーを焼こうかな。


すると次女が言いました。


「コーンの小さい粒々が入ってて、ザクザクしてるやつがいいな」


時には、家族からこうしてリクエストされることもあります。

コーンの小さい粒々…、どうやら次女は、コーングリッツのクッキーをお望みのようです。


皆様はコーングリッツを知っていますか?

トウモロコシを乾燥させて皮と胚芽を除き、小さな粒状に砕いたものです。

イングリッシュマフィンの表面についた、ザラザラとした黄色い粒状のもの、と言えばお分かりでしょうか。

パンやお菓子の生地、ナゲットの衣などにも使われます。


コーングリッツ、まだ家にあったかしら?


確認してみると、一回分はあるようです。

そろそろ買い足さないといけません。

しかし、このコーングリッツ、普通にスーパーには売っていないのです。

都会の大きなスーパーはどうか分かりませんけれども、私の住んでいる地域ではまず見かけることはありません。

製菓専門店、又は通販で手に入れねばなりません。




ここでふと、ああ、製菓専門店でゆっくり買い物するのが理想の一日だわ、と思いました。

何でも通販で手に入る時代ですが、直接目で見て、手にとって選びたい!




皆様も、ご自分の趣味に合った専門店へ行きたいと思われませんか?

カクヨムで楽しまれている方には、読書の好きな方も多いでしょう。

書店、古本屋、図書館。

ゆっくり時間をかけて巡りたい、一日そこにいたい、なんて考えられる方もいらっしゃるのでは?

私も本は好きです。

特に古本屋は、懐かしいものを見つけたり、欲しかった本を発見したり、まさかの低価格で掘り出し物を発掘しちゃったりして、とても楽しい場所です。


釣りが趣味なら釣具屋、キャンプが趣味ならアウトドアショップ、なんて、好みのお店で商品を見る時間は、きっととても楽しいものですよね。

同様に、私も製菓専門店でゆっくり買い物を楽しみたいです。



そもそも、時間を気にせずに一人でゆっくり買い物をすること自体、もう何年もしていません。

子育てをしていると、買い物はゆっくりするものではないのです。

もちろん娘が学校に行っている間に買い物は出来ますが、帰宅までの限られた時間に仕事や家事をする場合、自分の好きなものの為にのんびりお買い物……、とはいかないものです。

……私の時間の使い方が下手なのかもしれませんが。


思い返せば、娘がまだ幼い頃は、近所のスーパーでちょっとした買い物すらままならないこともありました。

長女は大人しく買い物カートやベビーカーに乗ってくれる子でしたが、次女はそういうものに乗るのを嫌がる子で、自分で好きに動けないと大泣きしました。

結果、スーパーでも抱っこ、又は歩くのですが、気になるものを見つけると動きません。

初動対応を間違うと、その場で大の字になって絶叫泣きする始末。

初めて見た時は、大の字になって泣く子って、ホントにいるのね……なんて呆然としたものです。

何度買い物カゴの中身を返して、暴れる娘を抱いて猛ダッシュで帰宅したことか……。

当時あのスーパーでは、私と娘は有名だったに違いありません。


そんな次女も、今はもう小学四年生。

買い物に一緒に行っても、困ることはなくなりました。

ただ、私の好きなものをゆっくり好きなだけ見て買い物をする、ということは、やっぱり難しいものです。


私が見たいものは、製菓材料をはじめとする専門用品なのですから。




私の理想。

そうですね、製菓専門店は私の住む地域にもありますが、出来ればもっと大きなところが良いです。

製菓材料から製菓用品、業務用器具まで揃っていると絶対見て楽しい!

いえ、業務用はもちろん見るだけですけれどもね。


原産地の違うチョコレート。

メーカーごとのバター、各種乳製品。

種類別の小麦粉に穀粉、ナッツ粉末、ミックス粉。

ドライフルーツ、トッピング。

材料は常温、冷蔵、冷凍を見て回れば無限にありそうです。


型などの道具類は、すぐに新しい物が発売されます。

きっと知らないものがたくさんあるでしょう。

パッケージだって、最近はお洒落でコスパの良いものがたくさんあります。


製菓用電気器具も、家庭用に小型化された高性能のものがあって、お店みたいなことが家庭でも出来るようになりました。

家庭用コンベクションオーブンなんて、家電屋で売っていますものね。

卓上ミキサーは憧れの電化製品です。

実際に使って試したい!


専門店ならではの製菓教室、製パン教室に参加するのも良いでしょう。

家ではなかなか作ることの出来ない手間のかかる生地を作って、贅沢なお菓子を作ったり、広い作業台で心置きなくパン生地を叩き付けて捏ねたりもしたいです。


発酵や焼き上がりを待つ間には、併設のカフェでスタッフお勧めの材料を教えて貰いながらお茶をしたり、専門雑誌をゆっくり眺めるのも楽しそうです。



夕方になり、出来上がったパンやお菓子を持って、家に帰ります。

主婦ですから、帰ったら夕飯が用意されていると嬉しいですね。

そして、今日の成果を家族に披露して、一緒に夜のお茶をしましょう。

たまに食べるリッチなお菓子は、皆を笑顔にして、楽しい会話も弾むでしょう。


そうして、お腹いっぱいになったら、娘が言うのです。



「明日は、お母さんが作ったお家のおやつが食べたいな」



ああ、なんて素敵。


この一言があれば、理想の一日は理想のままでも良いのかもしれません。




さあ、コーングリッツのクッキーを作りましょうか。

家中を香ばしい香りでいっぱいにして、娘が帰ってくるのを待ちましょう。


帰って来た時の娘の顔が、今から楽しみです。




《 おしまい 》

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