その始まり
物言わぬ人形が好きだった。
「ほんとうに、お人形さんみたいにかわいいわね」
人形だけが好きだった。
「これじゃ人形と変わらん。誰が娶ってくれるというんだ」
それになりたいと思った。
「わたくしはあなたの味方です」
そのために必要なものは、どんなものも揃えよう。
無数の手足、無数の目玉、無数の身体、無数の洋服。無数の、生命。なんだって用意しよう。いくつだって集めよう。
人形になりたかった。
取り換えたかった。
肉の体を、物の体に。
震える瞳を、静かな瞳に。
湿った重さを、乾いた重さに。
怯えた鏡像を、無機質な鏡像に。
人形になりたかった。
「人形になりたかった」
たったそれだけ。
「お母さんはどうしてわたしを人形に産んでくれなかったのでしょう」
そのために、たくさんの人を殺した。
「余計な手間を掛けさせて。何のために生まれてきたの?」
田舎者の使用人から、古株の使用人も、末の妹から、一番上の兄も、育ての親から、産みの親も。
……千人くらい殺したかな? そこにはわたしも含みます。
「わたしに人形にされるために、わたしを産んだの?」
ずるい。
わたしはまだなのに。
人を人形にする方法を見つけた。
だけど、「わたしが人形になる方法」が見つからない。
ずっと、ずっと、もうずっと、来る人みんなを人形にして。
なのにまだぜんぜんわからない。
わたしだけ、人形になれない。
いつまで? いつまで?
家に入る人みんな人形にして。ずっとずっと考えている。
「……そんな目で見ないでよ!」
棚にあった人形に、小さな槌を振り下ろした。
人形ごみの家 龍田乃々介 @Nonosuke_Tatsuta
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