納骨堂
碧絃(aoi)
カナエ
「ツジモリカナエの呪いだよ」
学校で、そんな噂話が広がっている。
同じクラスのツジモリカナエが自殺をした後に、2人の女生徒が行方不明になったのだ。2人はカナエをいじめていたのではないかと疑われて、家出をしただけのような気もするけれど、カナエは霊感があると自分で話していたので、そのことを知っている人たちが『呪い』なのではないか、と言い始めたようだ。
「カナエは大人しい子で、怒ったところも見たことないし、誰かを呪ったりなんか、しないよね……」
学校の近くにある納骨堂へ行き、カナエの遺骨の前で手を合わせる。
いつもひとりぼっちで、何を言われても言い返さないカナエは、よく揶揄われていた。教科書を捨てられたり、トイレに閉じ込められたり、SNSに自分の悪口が書かれているのを見せられても、彼女は何も言わなかった。そんな大人しいカナエが、他人を呪うことなんてできないはずだ。
「どこに行ったんだろうね、あの2人……」
顔を上げると背筋が、ぶるりと震えた。納骨堂の中はひんやりとした空気に包まれていて、薄暗い。私は思わず周囲を見まわした。
——誰もいないよね。なんだか気味が悪い場所だなぁ、幽霊が出そう。来るんじゃなかった……。
出口に向かって歩き出した時。コツ、コツ、コツ……と足音が聞こえてきた。広い納骨堂の中に1人きりで不安だったので、なんだか安心する。
正面から歩いて来たのは、若い男の人だ。少し年上。大学生くらいで、優しげなイケメンだ。背が高いのも良い。
——わぁ、かっこいい。こういう彼氏が欲しいんだよね。みんなに自慢できるし。
横目でチラチラと見ながらすれ違うと「あの、すみません」と声をかけられた。
「これ、落としましたよ」
彼が私の方へ差し出したのは、青い宝石がついたシルバーのブレスレットだ。高校生の私では買えないような、高価なものに見える。
——私のじゃないけど、イケメンが渡してくれてるんだから、貰っておこうかな。
「ありがとう、ございます……」
受け取って上目遣いで顔を見ると、彼は優しく微笑んだ。やはり格好良い。低めの落ち着いた声も好みだ。
「今日は、1人でここへ?」
彼は私の目を、じっと見つめながら言う。
——どうして話しかけてきたんだろう? もしかして、私のことが気になっているのかな。そうだったら、嬉しいけど。
「はい。ここに亡くなったクラスメイトの遺骨があるので、手を合わせに来たんです」
「そうなんですね。亡くなったクラスメイトは、仲が良い友達だったんですか?」
「友達……というほど仲が良かったわけではないんですけど、同じクラスだったし。誰かが来てあげないと、可哀想だから……」
「へぇ。あなたは優しい人なんですね」
彼に良い印象を与えられたようだ。連絡先を聞いたら、教えてくれるだろうか。学校にはこんなに格好良い人はいない。せっかく出会えたのだから、連絡先を聞いておきたいし、名前も知りたい。
「でも、1人で出歩くのは、危ないんじゃないですか? 女子高生が2人も行方不明になっているようなので……」
彼は私のことを心配してくれているようだ。それなら、怖いと言えば、一緒にいてくれるかもしれない。
「そうですね。来る時は何とも思わなかったんですけど、今はちょっと、怖いです……」
ブレスレットを持っている方の手で、髪の毛を耳にかける。すると彼は、その手を取り、両手で優しく包み込んだ。とても温かくて、大きな手だ。
——知らない人に触られるのはイヤだけど、彼は全然イヤじゃない。むしろ嬉しい。このまま付き合ったりとか——。
「……彼女たちは、どうなったんでしょうね? 生きているのか、死んでいるのか。それに、どうして行方不明になったのか。気になりませんか?」
「えっ」
「学校では、自殺をした生徒の呪いで、行方不明になったと言われているんでしょう?」
「あぁ。そうです……ね」
その話は、したくないのだけれど。
「可哀想ですよね。いじめを苦に自殺をしたのに、さらに悪者にされているみたいで。彼女は三人の女生徒から、いじめを受けていたようですよ。僕はそいつらの方が悪者だと思うし、罰を受けるべきだと思うんですけど、あなたはどう思いますか?」
彼は私に顔を近づけて、首を少しだけ横へ傾ける。
——あれ……?
ふと、違和感を覚えた。どうして彼は、カナエをいじめていた生徒の人数まで知っているのだろうか。
「私は……よく、分かりま、せん……」
「すごく簡単な質問だと思うんですけど、分からないんですか? 頭が悪いんですね。じゃあ、これも知らないかな? 遺骨から、綺麗な宝石を作ることができるんですよ。言わなければ、本物か人工の石か分からないくらい、綺麗な石ができるんですよね。ちなみに僕は、青い石を作ってもらいました。僕の大切な人は、海が好きだったので」
私が握っていたブレスレットを、右手で取り上げて、彼はにっこりと微笑んだ。
「今日はあなたに会えて、本当に良かった。ずっと泣いていた妹のカナエが、やっと笑ってくれたんです」
そう言って、ほんの少しだけ視線を上へ向けた彼の瞳には、死んだはずのカナエが映っていた——。
〈了〉
納骨堂 碧絃(aoi) @aoi-neco
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