骨の塔

ほのなえ

この手記を読んでいる、勇敢なる冒険者へ

 知っているだろうか。この世界の片隅にある、空から大きな骨が降る砂漠の存在を。


 ああ、「骨が降る」といっても、流石に雨が降るように、ばらばらと多量に降り注ぐわけではない。だが、一日に数片、人間の背丈よりも大きな骨が、遥か上空から落ちてくる――となれば、なかなかの頻度だとは思わないだろうか。

 実際その砂漠には、数え切れないほどの大量の骨が砂に埋もれ、日に日にその数を増している。 


 この骨は、一体何の骨なのか。気になった私は友人のとある生物学者に依頼し、この骨について調べてもらったことがある。

 すると友人曰く、それはどうやら鳥の骨に非常に近い形をしているらしい。


 この事実を聞いて、私はひとつ思い当たることがあった。それは「怪鳥」の存在だ。


 怪鳥――私はそう呼んでいる、それはそれは大きな鳥。

 怪鳥が上空を飛ぶその時、地上にとてつもなく大きな影をおとし、辺りは真っ暗になる――そう言われるほどに、大きな翼を持つ鳥だ。前に一度だけ、私はこの砂漠の付近で怪鳥を見たことがある。


 そして、骨の降る砂漠――私は「骨の砂漠」と名付けた――は、砂漠らしからぬことに、日の射すことのない場所だった。

 砂漠の上には、滅多に雨が降らないにも関わらず、常に分厚い雲が広がっており、骨を降らせるその空を――そしてその謎の正体を、すっかり覆い隠してしまっているのだ。


 このことから私は、骨の砂漠の上空の雲の上には、空に浮かぶ島――もしくは大地か巨大樹のようなものがあり、そこには、とてつもなく大きなあの「怪鳥」の住処すみかがあるのではないだろうか、と考えている。


 その謎を解き明かすべく、私はその骨を使い、天高く、雲の上まで届くような「骨の塔」を建造することにした。


 骨の塔といっても、そんなに大層なものではない。骨を組み合わせては繋ぎ合わせ、その名の通り塔ののみを、ひたすら天に向かって造っていっただけのものである。

 なぜそんなおかしなものを建造するのかって? 雲の上まで行くには、それしか方法がないためだ。幸い、砂漠には大きな骨が至る所に――無限に埋まっている。塔を造る材料に困ることはない。


 大きくて重い骨を動かすのはなんじゃないかって?(……我ながら上手いこと言ったものだな)

 実は、私には多少、「魔法」の心得があるため、大きな重いものを動かすことについては問題がなかった。さらに建造、というものについても、私のこれまでの仕事柄、得意分野であった。

 もっとも、人間が空を飛べるような魔法さえあれば、手っ取り早く雲の上まで行けるのだが……生憎あいにく、この世界にそのような便利なものなど存在しないのは周知の事だろう。



 そうしてひたすら骨を組み合わせては繋ぎ合わせてゆく日々が続き、日に日に少しずつ高さを増してゆく骨の塔。

 次第に塔が高くなるにつれ、塔を登って降りてを繰り返しながら作業せねばならないことにつつも――――長い歳月に渡るその作業を経て、ついに骨の塔は、雲の上の高さにまで達することとなった。


 いざ、雲の上の世界へ。そう意気込み、雲を突き抜け、塔の頂上まで登った私がまず目にしたものは――――。


 大きな怪鳥だ! それも一羽だけでなく、幾羽も飛んでいる。複数羽の怪鳥を同時に見たのは、初めてのことだった。やはり、この雲の上の何処かに、怪鳥の住処すみかがあるに違いない!


 しかし何故、怪鳥の羽や肉などの付いていない骨が――骨が、下界にある骨の砂漠に落ちるのだろうか。ここまでたどり着いた私は、今更ながらに疑問を抱いた。寿命を迎えた怪鳥の死骸か何かだとしても、毎日数羽もの鳥が死ぬものだろうか。それに、なぜ骨が落ちるのか――――。


 そのことをじっくり考えるいとまもなく、私はすぐに、その疑問に対する答えを目の当たりにすることになる。


 私は、その時――――あの大きな怪鳥を、ひょい、と事もなげにつまむ、あの大きな怪鳥よりも遥かに巨大な手――のようなものを見たのだ。


 その手は親指と人差し指で怪鳥をつまんだまま――――骨の塔を建てようやくたどり着いた雲の上の、さらにその上に広がる雲の中へと一旦姿を消したかと思うと、バリバリバリ……ムッシャムッシャ……ゴックン、と大きな音を鳴らして怪鳥を喰らい(喰らう姿は実際に見てはいないのだが、おそらくそうとしか思えぬような音がした)――――再び手が上空の雲の中からぬっと現れたかと思うと、骨――先程まで空を舞っていた怪鳥のなれの果てと思われるその骨を、ぽい、と下に――我々の住む下界に落とす。


 な、な、何なのだ、あの巨大な手は――――!


 私が恐ろしさのあまり身動きが取れず、ただその場にたたずんでいると、その手はふと、こちらに関心を向けたように、黒ずんだ色をした(そしてかすかに鱗のようなものが生えているようにも見える)一方で、形は人間のものに非常に似通っているようなその手を――長い爪の生えた人差し指を、すい、と骨の塔に向ける。


 その時ほど恐ろしい思いをしたことは、今までにも――そしておそらくこれからも、二度とないだろう。その恐ろしく巨大な手に指さされた私は恐怖のあまり、逃げることも、動くことすらも――何もできずに、骨の塔の頂上で、ただひたすら固まっていた。


 大きな指が、つん、と私の長年築き上げてきた骨の塔に、まるで小突くかのように軽く触れる。

 すると――――風が吹いても簡単には倒れないようにと心柱を砂漠の砂深くまで埋め込んだり、あらゆる工夫を凝らして頑丈に造りあげた最高傑作である私の骨の塔は――――いとも簡単にぐらりと傾き、その瞬間、ガラガラガラガラガラガラ…………と一斉に、骨が、骨の塔が、全てが崩れ落ちていった――――。



 そうして雲の上の世界から一転。自らが建造した骨の塔とともに、遥か下にある骨の砂漠まで真っ逆さまに落下したはずの私が、なぜ今も生きているのか――――それは、私自身にもよくわからない。何しろ骨の塔があの巨大な指に小突かれてからというもの、記憶がないのだ。

 気がついた時には私の体は、骨の砂漠に埋もれていた。どうやら砂漠に落ち、自分でも信じられない話なのだが――柔らかな砂のおかげで、一命を取り留めたようだ。


 それならば、と再び骨の塔を建て直し、私は再び雲の上の謎を解明し――――ようとしたわけではなかった。

 私はあの大きな怪鳥をも食らう巨大な手の存在を恐れるあまり、それ以来、雲の上の世界の謎を解き明かそうという意欲を、すっかり失ってしまったのだった。


 しかし余命いくばくない今となっては――――とにかくあの時見た「手」の正体が、気になって気になって、仕方がないのだ。


 この手記を読んでいる、勇敢なる冒険者へ。君に勇気があるのなら、あの雲の上の世界にいる「手」の正体を、その謎を解き明かしてほしい。

 私と同じように骨の塔を建てても、何か別の他の方法で空への冒険に繰り出してもらっても構わない。何としても、あの手の正体を、誰でもいいから――――どうか……頼む。


 それが、この手記を書くに至った私の、ただ一つの願いである。



『骨の塔』 完


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