アジフライ

たをやめ

アジフライに口内炎があったら。

  アジフライに口内炎があったら、レモン汁をかけることはなんて惨いことか。

 昨日の晩御飯の残りの、テーブルの上でラップを布団にしているアジフライを見てそう思った。

 僕がアジフライで、口内炎があったら、きっと食べられることよりもレモン汁をかけられることを恐れる。食べられる前の最後くらい、幸せなものを纏いたい。傷に沁みない、おいしいやつを。

 ソースもべたべたしていて良くない。サクサクしている方が、アジフライの本当の姿。昨日のお母さんがつきっきりで揚げた、油揚げみたいな色。ソースは、色が綺麗じゃないからいやだ。


 なんだろう。

 色が綺麗で、さっぱりしていて、それで傷に沁みないやつ。アジフライの一張羅って。


 ぴかっと脳天に雷が落ちて閃いた。いそいそと台所に忍び入る。

 冷蔵庫を開けて、ジュースの缶を取り出した。めいっぱい手を伸ばして背伸びして、一番上の段の。来年の誕生日に飲もうと思っていた、大好きなやつ。

 きいんと冷えた缶を握りしめ、振って振って、ゼリーを崩す。透明な薄っぺたの布団を引っぺがして、ジュースをかけてみた。きっと沁みない。


 にっこり笑ってアジフライを眺めていた僕のもとへと雷雲が迫り来て、お母さんのげんこつが鳴り響いたのは、その五秒後。

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アジフライ たをやめ @tawoyame_

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