薔薇色の人生
水城みつは
薔薇色の人生
私の人生は終わろうとしている。
とは言っても結婚もして孫も出来た。概ね満足な人生だった。
晩年は遺伝子由来の難病にかかりはしたものの、幸いこの病院に入院することが出来たためかなり延命できたといえる。
ただ一つ心残りがあるとすれば、生き別れとなった兄弟の事だ。
私には双子の兄弟がいた。一卵性双生児であり、両親でさえ区別がつかなかった。
いや、それは単に両親が私達に興味がなかっただけかもしれない。
大財閥の一員でもあった彼らは私達を単に跡継ぎという名の駒としか見ていなかった。
出来の良い兄と出来が悪いとは言わないが、ごく普通の弟。
両親の興味が兄にのみ向かうのは当然の事であった。
そんな環境でも兄弟の仲は良かった。
しかし、悲劇は訪れる。
二人で同じ大学に挑んだ受験で兄は当然のように合格したが何とか安全圏内と言われていた弟は体調不良もあり不合格となってしまったのだ。
世間体を気にする両親は不合格となった弟を責め、大喧嘩の末に勘当された弟は家を出ていった。
ただ兄弟を見送ることしか出来なかった私は大学に入ってからはそれこそ人が変わったように勉学に励んだ。
卒業後は関連会社に入り、トントン拍子に昇進することになる。
魂の片割れというべき兄弟がいなくなり、両親との仲は冷え切っていたが、結局は両親の引いたレールに乗るしかなかったのだ。
そんな中、私が兄弟の事を忘れるはずもなく、様々な伝手を辿って探したものの見つけ出すことは出来なかった。
双子ならではの勘で死んではいないと信じていたものの不安だった。
だが、その心配も杞憂だったと私自身の結婚式で知ることになる。
送り主不明のバラの花束。
その花束の真ん中には外側が一つの花びらの中に二つの花が咲いているような双子のバラが輝いていた。
その後も時々届けられた双子のバラ。
初めての子供が生まれた時、大会社の社長となった時、初孫が誕生した時。
人生の節目節目で私は兄弟に見守られていた。
そして、今もベッド横の花瓶に一本のオレンジ色の双子のバラが飾られようとしていた。
「……先生、そのバラは?」
私の担当となっている丁度孫ぐらいのまだ若い女の先生だ。
「祖父が育てていたバラです。この病院の屋上にバラ園があるんですよ。祖父の遺言で双子のバラが咲いたらこの部屋に飾って欲しいと……」
そう言って笑う彼女の目は、あの日、私と入れ替わって出ていった兄さんの優しい目にそっくりだった。
薔薇色の人生 水城みつは @mituha
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