カラスの集まる所

☆白兎☆

カラスの集まる所

 これは、私がよく通る街路にある空き地の話です。


 そこは車通りも多く、空き地の右隣りにはレトロなカフェ、左隣には大手家電量販店があり、空き地の裏手にはホームセンターの建物がある。


 この空き地には元々、コーポ○○という集合住宅の建物があった。コンクリートで出来た丈夫そうな建物だったが、見た目にも古く、老朽化していたのだろう。数年前にそれは解体されて更地となった。白い砂利が敷き詰められ、綺麗に整地されたその土地には、売地の立て看板はなく、ただ空き地としてそこにある。通りに面していて立地の良いその土地は、売り出せばすぐにでも買い手はつくだろうと思うのだが、土地の所有者はその土地を手放す気は無いのだろうか? などと考えてしまう。


 ただ、この土地が気になるのは、そこではなかった。私が車でこの土地の前を通る時、いつもカラスが数十羽いるのだ。周辺を飛んでいたり、周辺の建物の屋根や電線に留まっていたり、その何もない空き地の地面でぴょんぴょんと、一歩一歩軽やかに跳ねて黒い羽を広げている。ただ、その数の多さは、やはり異様な光景に見えた。


 そこに居るのはカラスだけではない。トンビも常に十羽ほど居る。何かの死骸でもあるのかというのをつい連想してしまう。この腐肉食の鳥たちが集まる理由は何だろう? この空き地の前を通るたびに考えるが、整地されたその土地には何もない。だからこそ、逆に不気味さを感じるのだった。


 そして、私は行動を起こしたのだ。空き地の左隣の家電量販店の広い駐車場の目立たない場所に車を止めて、気になる空き地の前までへ行ってみた。カラスが警戒するかのようにこちらを見ている。空を見上げれば、電線に留まっていたいた数羽のカラスが急降下し、私を掠めるようにして空き地の地面へ降り立った。そして、こちらを向いて瞬きをする。カラスはとても賢く、人の言葉を覚えたり、人の顔を認識できると聞いたことがある。私はこの道を車でよく通り、この土地に集まるカラスたちを見ていた。まさか、自分の顔を覚えられていたのではないかと不安がよぎった。


 以前、テレビで見たことがある光景を思い出す。理由は分からないが、カラスに顔を覚えられ、嫌われた人が、嘴で突かれ逃げ惑っていた。その場所から遠く離れるまで、カラスは執拗に追いかけて突いている様は、まるで映画で見たシーンの様だった。

 

 そんな事を考えていると、こちらを見ていたカラスがぴょんぴょんと近付いて来た。何かの意思を感じるが、カラスの考えている事など分からない。ただ、その動きから目が離せなかった。このカラスは何がしたいのだろう? 何をするのだろう? それを見届けたいと思い、じっとその動きに目を凝らしていると、他のカラスも同じように私に向かって一歩一歩と近付いて来る。少し怖い気持ちもあったが、危険だと感じたら逃げればいい、そう思って、その場から離れずにいると、近隣の建物の屋根に留まっていたカラスが一斉に急降下して私を取り囲んだ。私は空き地には足を踏み入れてもいない。このカラスたちは、私がこの土地に足を踏み入れたらどうするだろうか? カラスに囲まれ、恐怖心を抱いていたが、それでも、好奇心の方が上回ってしまった私は、ついにその土地へと、足を踏み入れてしまった。


 それが引き金となったかのように、カラスは一斉に私へ嘴を突き刺してきた。数十羽のカラスが私の身体を覆い尽くし、黒い塊の様になっているだろう。視界も奪われ、ただただ、突かれ、肉を啄まれながら、自分のその姿が周りからはどう見えているのだろうか想像すると、刺激的な光景で面白いなどと思う。痛みは既に感じなくなっていた。人は強い痛みを感じると、痛みを和らげるためにエンドルフィンという物質を分泌すると聞いたことがある。エンドルフィンは気分を高揚させる効果もあるらしい。そのせいか、私の脳はおかしくなったのだろう。そのうち、私の精神は身体から離れて、上から自分の身体が啄まれ続けるさまを見ていた。ふと気づくと、私は電線に留まっている。腕を動かしてみると、黒く艶やかな羽が見えた。


 ああ、私はカラスになったのか。そうして、下を見ると、カラスたちに綺麗に食べ尽くされた私の骨だけが、白い砂利の様になっている。

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カラスの集まる所 ☆白兎☆ @hakuto-i

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