ラッシュ

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ラッシュ

地方の大学進学を機に一人暮らしを始めることになった滝沢さんは、なるべく家賃の安いアパートを探していた。


すると高校の部活のOBであり、同じ大学へ二年前に進学した先輩から「安いけど出るよ」と噂の物件を紹介された。


その手の話をまったく信じていない滝沢さんは、それでお金が浮くなら、むしろ好都合とそのアパートを契約した。


年季の入った1Kのアパートだったが、一人暮らしするには充分な設備が揃っていたし、いざ住むとなると多少の不安はあったものの、いわゆる幽霊は一切見えないし、怪現象の類もない。


ただ、ひとつだけ不思議だったのは、いつも部屋の中が蒸し暑いことだった。


学校から帰り、アパートの扉を開けると「むわっ」と湿った熱気が全身にまとわりつき、急いで部屋の突き当たりにある窓を開けて換気をするのが日課だった。


とは言え、山の中腹にあるアパートの西向きの部屋なので、午後から差し込む西日の熱が部屋に籠るからだろうと考えていた。


夏場は堪えたが、逆に冬場は暖房費が浮くとプラスに考えていた。


その四年後、滝沢さんは無事、大学を卒業し、就職を機にアパートを引き払い、上京した。


その時、彼ははじめて自分が幽霊物件に住んでいたことが分かった。


人生初の朝の通勤ラッシュに遭遇し、みっちりと人が詰まった電車内に身体を押し込まれた際、


「ああ、あの蒸し暑さはこれか」


と気が付いた。

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