薔薇色の結果

駒井 ウヤマ

花の色は

 薔薇色。それは少年にとって一世一代の大勝負。ことに、青春真っただ中の高校生ともあればひとしおだ。

「こ、こ、この色の薔薇を下さい!」

 上擦った声で、行ったことのない街の花屋で不細工な店員にそう告げたのさえ、今となっては遥か昔の記憶に思える。

「・・・しかし」

 しかし、あの花屋の店員。多分アルバイトなんだろうが、言うにこと欠いて「はあ?」は無いだろう、「はあ?」は。不細工な顔の中でも、いっとう形のわるい口をポカンと開けて。

 あれじゃ、僕の方が馬鹿みたいなことを言ったようじゃないか。

「いや、いや。忘れよう・・・わすれよう!」

 ブンブンと、あの間抜け面を振り払うように被りを大きく振ると、目当ての部屋まで足を急がせる。

 そうとも。これは彼にとって大きな大きな、それこそあと1年を残す高校生活の帰結、その如何を導くビックイベントなのだ。

「でも・・・美南みなみちゃん、ちゃんと答えてくれるかなぁ」

 それだけが、彼の気がかりだ。だが、逆に言えば、それさえ乗り越えればあとは約束された勝利へのロード、ファンファーレ間違い無しなのだ。

 美南とは、彼の同級生、学年イチのヒロイン・・・と彼は思っている美少女だ。偶然にも彼と同じ部活動に―というより、彼が同じ部活動に入った―所属しており、それなりに話も―というより、彼の方から以下省略―するようになった間柄だ。

 もう、友達と言っても過言ではあるまい(※しつこいが、彼からすれば)。

 そう合点している彼からすれば、もうそろそろ関係を進展しても良い頃だと信託していた。会って2年目の冬、12月24日のクリスマス・イブ間近ともなれば、だ。

「ひとまず、受けとってくれたから・・・あとは、期待するだけ!」

 しかし、そうは言っても彼から何の工夫も無く「好きです」と伝えるのは、何か違う気がした。そういうイベントは、女性の方から声を囲えるべきだ、とも。

 だから、彼は一計を案じた。

 作戦①彼が事前に購入した深紅の薔薇を1輪、自分の気持ちだと、プレゼントだと言って彼女へと渡す。

 作戦②抱き込んだ先輩から、気持ちを返さないといけないと伝えて貰う。何なら、同じ色の薔薇で構わないと暗に含ませながら。

 作戦③同じ色の薔薇を返してもらう。即ち、同じ気持ちだと彼女に表明してもらう。

「完璧だ、完璧な作戦過ぎる」

 先輩を抱き込むのにこの半年間にバイトで稼いだ給料を全てつぎ込む羽目になったが、その価値は十分にあるだろう。

 深紅の薔薇、その花言葉はズバリ『あなたを愛しています』、だ。つまり、それを返すということは・・・。

「ふふふ」

 おっといけない。こんな不気味な笑みを零していては、普段の僕らしくない。

 シャッキリと表情を整えて、足早に来たせいで乱れた息を整えて、彼は部室である美術室のドアに手をかける。

 今日は部活は休みだから、他の誰かが来る心配はない。他に誰かがいる心配もないから、彼女が自分の気持ちを伝えるのを妨げる障害は、何一つない・・・はずだ。

 時計を見る。16時ジャスト、頼んであった時間だ。

「よおし!」

 気合を入れるためパン、と両頬を叩いてから全身全霊の力を込めて、彼はそのドアを勢いよく開いた。

「いやあ、お待た・・・せ?」

 そこには、だれもいなかった。

 そうとも、今日は部活は休みだから、誰もいないのは問題は無いが・・・どうして肝心要の彼女もいない?

「間違ったかな?」

 往生際悪く、少年はかかっているプレートをまじまじと見るが、そこが『美術室』であることに間違いは無かった。

 なら?と首を捻る彼の目に、ある1つの物体が入った。

「・・・・・・花瓶?」

 それは、机の上に置かれた花瓶であり、そこに1輪、薔薇の花が生けられていたのだ。

「なあんだ、南ちゃんったら。照れ屋なんだから、もう」

 そう思ってその花瓶に近づく。直接渡されなかったとしても、こうして用意してくれているのなら、これが彼女の気持ちで間違い無いだろう。

「困っちゃうなあ・・・・・・って、あれ?」

 差し込む夕日で分からなかったが、その薔薇の色は彼が渡したそれとは違うように見える。というか、よくよく見れば、その花も薔薇では無いようだ。

「なんだ、これ?」

 疑問で一杯になりながら、少年はその花を手に取る。

「これは・・・カーネーション?」

 母の日じゃないぞ、と思いながら更にまじまじと見ると、夕日で分かり難いがどうやらそのカーネーションの色は黄色いようだ。黄色いカーネーション。

「・・・って、どういう意味だろう」

 まさか、『僕の母親になってくれる』なんて意味かな、なんて薄気味の悪い現実逃避をしながら、少年は持っていたスマホで黄色いカーネーションの花言葉を調べる。

 調べて。

「・・・・・・ええ」

 意味を解して。

「・・・・・・・・・そんな」

 意図を解した彼はガックリと膝を付く。それと同時に取り落とされたスマホに表示されている、検索結果は『軽蔑・拒絶・貴方には失望しました』。

「・・・・・・・・・・・・ううう」

 数秒後、彼はさめざめと泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

 薔薇色の結果 駒井 ウヤマ @mitunari40

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ