恋愛必修時代の不器用な二人

 青春ラブコメディの中に鋭い社会風刺の要素を巧みに織り交ぜた作品。少子化対策として高校生の恋愛を必修化するという斬新な設定は、現代社会の問題を鮮やかに浮き彫りにしています。
 物語の中心となる主人公と冴島有佐。二人の「書類上の恋人」という立場から始まる交際から徐々に芽生えていく感情がとても丁寧に描かれており、読み手の心を掴んで離しません。主人公の視点から見る冴島有佐のキャラクターは魅力的で、口が悪くからかい気味な態度の裏に隠された優しさや不器用さが、彼女の人間味を感じさせます。

 作品は恋愛奨励法という制度を通じて、個人の自由と社会の圧力の対立を鋭く描き出しています。高卒資格のために必要な交際届やデート報告書といった要素は、恋愛の形骸化や数値化を皮肉っています。
 と同時に、この物語は青春ラブコメディとしての魅力も十分に備えています。主人公と冴島の関係の変化や主人公の行動は、読者の心を揺さぶります。制度に従っていた主人公が初めて自分の感情に正直に向き合う瞬間は、青春ロマンスの醍醐味です。
 また世代間の価値観の違いや、過去の恋愛観との対比も巧みに描かれています。これにより、恋愛奨励法がもたらす社会の変化と闇が、より立体的に浮かび上がります。

 社会制度の矛盾を鋭く指摘しながらも、若者たちの純粋な感情や成長を丁寧に描いた本作。制度化された恋愛の中で自然に芽生える感情を通して、読み手に様々な問いを投げかけてきます。恋愛の本質や個人の自由、社会制度のあり方について考えさせる、奥行きのある作品です。

その他のおすすめレビュー

Maya Estivaさんの他のおすすめレビュー932