死体のゆめ

あやひら

第1話

夢の中で、わたしは死体だった。



身体の自由もきかず、指一本さえ動かせないまま、瞬きのできない瞳で事の成り行きをじっと見ていた。

お腹から流れた血で出来た赤い水たまりが、私にもう明日が無いことを教えてくれた。


わたしを殺した彼女がだれかと話している。

「じぶんのままでいるのは耐えられなかったの。とにかく別の誰かになりたかった」


彼女の長い髪には乾いた血がついていて、ぐしゃぐしゃにからまっていた。

白いTシャツはすっかり汚れてしまっていて、彼女の犯した罪を語っている。


「このままでいたら駄目だと思った。誰かにならなくちゃって。そのためには人を殺すしかないでしょ?だから殺したのよ」


そう言って私を指差した。彼女の顔に罪悪感や良心はなかったけれど、苦しげに歪む表情からは切迫感が滲んでいて今にも泣き出しそうだった。


こんな立場のくせに、彼女を可哀想に思った。名前も知らない女性。なぜ人なんか殺したんだろう?人を殺したって、別のなにかにはなれない。殺人犯の自分になるだけだ。


それとも彼女の頭の中のルールではなれるのだろうか。


彼女が幸せになれるといいな、と思った。


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死体のゆめ あやひら @a8h1ra

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