電子ペットの死

白川津 中々

◾️

たまごっちょんが死んでしまった!


ピーピーピーピーうるさいと思ったらこれ。今際の際の言葉もなく墓のグラフィックが表示される無慈悲。電子ゲームとはいえ命は儚いということか。無情だ。


まぁ死んでしまったものは仕方なく、死体をどうするかで悩んでいるとディスプレイに"葬式をする"との文字。なんだ凝っているな宗派とか大丈夫なのかななどと思いながら決定ボタンを押下。何も起こらない。連打したり他の部分をいじっても変化なし。壊れたかと興醒めしていた矢先、玄関チャイム。なんだなんだと出てみたら喪服の男が立っている。


「この度は御愁傷様でした」


「あの、誰も死んでないんですが」


「いえいえ、亡くなられましたよね。たまごっちょん」


「え、あぁあれ」


「はい。それで、お葬式をあげられると」


「最近のゲームはこんなサービスあるんだ。人件費とか大丈夫なんですか?」


「まぁ、はい」


「分かりました。じゃあお願いします」


「承知しました。それでは、仏教、神道、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、ゾロアスター教、ジャイナ教、パーフェクトリバティーの中に信仰されているものはございますでしょうか」


「あ、そういうのはちょっと分からないです」


「それでは無難に仏教にしておきましょう」


「宗派とかは選べるんですか?」


「もちろんでござます。13宗56派の中からお選びいただけますね。天台宗真言宗浄土宗浄土真宗……」


「あ、すみません。よく分からないので普通のでお願いします」


「普通もなにもないのですが、それでは適当に見繕って各宗派のエッセンスをブレンドしていきましょうか」


「そんなカクテルみたいなことできるんですね」


「まぁ所詮ゲームのペットなんで」


なんでそこだけ急にドライなんだ。


「じゃあそれでお願いします」


「かしこまりました。では仏教形式で適当にブレンドですね。えー……それでは、120万円ですね」


「え?」


「ですから、葬儀代120万円です」


「あ、お金取るの」


「そりゃあそうですよ。ご住職や会場の手配などもいたしますから」


「たかだかたまごっちょんが死んだだけでそんな大袈裟な」


「あなた、たかだかたまごっちょんって、血も涙もないんですか」


「あんたさっき所詮ゲームのペットって言ってたろ。もういいよ。帰ってくれ」


「ご遺体どうするんですか。たまごっちょんのご遺体。お葬式あげないと化けて出ますよ」


「出てたまるか! 帰れ帰れ!」


男を追い出しリビングへ戻る。相変わらずたまごっちょんは死んでいる。どうしたもんかと頭を抱えていると、天啓きたる。


これ、データリセットしたらいいだけなんじゃないか。


そうだ、それだ。その手があったとたまごっちょんをひっくり返すと小さな窪み。これがリセットボタンである。安全ピンの先端で、そこを押せば……


ピッピッピッ……

ピッピーピピピ。


成功。

これでリセット完了。生まれ変わったたまごっちょんを育成できるぞっと……なんだ、なんか、変だな。グラフィックが歪んでいる。バグか?


「……シテ」


声。

どこから。

たまごっちょんからだ。


「ドオシテ、リセット、シタノ」


今度ははっきりと聞こえた。そして、ディスプレイから俺が育てていたたまごっちょんが出てくる。ちくしょう! 化けて出たんだ!


「カナシイ、カナシイ、カナシイ」


「……」


たまごっちょんに蝕まれていく。身体が動かず、内部から少しずつ抉られていく感覚。痛みと不快感が全身を走るも、叫びさえあげられない。なんという事だ。これが祟りか。こんな目に遭うなら葬式くらいあげてやればよかった。


「しかし、120万は、高い……」


必死になって絞り出した声。

しかし、葬儀屋には届かないだろう。


日本の葬式は、高すぎる……

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