廃墟あとそうじ人

釣ール

さいしょはそうかんがえていた

 いいよダイイングメッセージなんて書かなくて


 びんコーラも使いきったか。

 ふたをしまって頼まれた場所に車で向かう。


 物価高ぶっかだかで今までのような栄養管理は出来なくなり、海外や他の人達から環境的にどうしても差が出てくる。


 動物とか植物を攻撃したくない。

 廃墟はいきょと聞いて思いついたのは動物被害だったからだ。

 狩猟免許しゅりょうめんきょを仕方なく副業目的で取得しゅとくし、それから仕事で頼まれた時以外は使っていない。


 でも修行にはちょうどいいから更新は毎回している。

 人の罪深つみぶかさを知るためにも必要なら資格だと俺はいつも紙にメモしている。


 あくまで狩猟免許しゅりょうめんきょは副業にすぎない。

 簿記ぼきでもやればよかったかもしれない。

 二級以降は簡単には合格できないが。


 他にも俺は別の一面がある。

 むずかしい横文字だけで説明するとコンタクトスポーツだ。

 顔が良いとほめられるが、見てくれと相性が悪いのかいいのか分からない競技もそうそうない。


 しかも俺の頼まれごとはほとんどが廃墟はいきょだ。


 心霊?  不審者ふしんしゃ?  動物や植物の被害?


 心霊か。

 そんなものはいない。

 でも人間はついてまわる。


 不審者ふしんしゃと言われればまた違う。

 そいつらも時代によって動き方を変えてくる。


 わざわざ無許可で廃墟はいきょにやってくる連中なんてタチが悪いもの。


 



*



 俺が廃墟はいきょに来た時にはホラードキュメンタリースタッフがカメラをこちらに向けずに待っていてくれた。


「投稿されてきた映像をチェックしていたらこの廃墟はいきょにたどりついて、我々以外に依頼した人がくると聞いていたから誰かとは思っていたけど」


 本当にいるんだ。

 記者会見やらインタビュー以外でマスコミと会うなんてめったにないから。


 いや、それを言うと俺が顔を売っていないみたいじゃないか。


「見たところ心霊とかホラーは信じてなさそうだね。ならよかった」


 良いのかなそれ。

 でもいないならいないでいいか。


 もしかしたらメイクをたのまれるかもしれない。

 依頼内容は迷惑系ライバーをこらしめてくれとしか言われていない。

 ホラードキュメンタリースタッフについては聞いてはいないが映像の検証としてインタビューされるのも悪くない。


「えっと、安心してください。映像について情報を調べるだけで君とは別の依頼だから」


 じゃあインタビューとかないのか。

 それもそうか。


 映像の内容は知らないけど俺がここの関係者としていきなり出たら視聴者が混乱こんらんする可能性がある。


 その方がよっぽどホラーだし、別件なら料金が高くなりそうだ。


 俺の仕事を上手く利用して映像を撮るつもりなのは頭の片隅かたすみにいれている。


 それでも今まであってきたマスコミと違ってスタッフは段取りをある程度教えてくれた。


 折半せっぱんまでしなくていいのに。

 低予算ていよさんだからって手を抜かないプロの仕事を他ジャンルかつ廃墟はいきょで見られるとは。


 俺に依頼した管理会社はおそらくホラードキュメンタリースタッフにも詳細しょうさいは明かしていなさそうだった。


 にもかかわらず彼らは俺を警戒けいかいしている。


 俺たちは準備に数時間かけて廃墟はいきょ内で別行動を開始した。



*



「ここでまちがいねえ。まだ知られていない廃墟はいきょだ」


「そんなことあるか?  この情報化社会で特定されていない廃墟はいきょなんてあるわけがねえ」


「もちろんだ。だから他のカモがやってくる。自分達が先に見つけたと思いこみながら」


「さっき別のカメラマンが見えた。俺達がカモにされてるんじゃね?」


「やつらはただの使いっ走りだ。俺達がいても抵抗はできねえ」


「セキュリティつってもこんだけ勢力がいるマイナーな廃墟はいきょにライバーなんてくるのか?」


「おどす相手は俺達がねらう馬鹿だけじゃねえ。さっきいたカメラマン達にも金を渡してもらわないと」


 話し声が聞こえてくる。

 いつの間にか別の侵入者しんにゅうしゃがやってきたか。


 話しながら廃墟はいきょの中を荒し回る。

 へえ。

 マイナーな廃墟はいきょとかあるんだ。


 俺達がここをつきとめているのも予想しているのに。

 もしかしたら登録者が10万を超えた無数のライバー達がここにいるホラードキュメンタリースタッフよりも安く速く動画を作りに全世界の廃墟はいきょを調べてやってくるのだろう。


 良くは知らないが魅力がある建物なのかもしれない。

 だからといって荒らすのはよくないなあ。


 俺はふだん、日常では出していない性格を出すことにした。





「今どき再生数稼ぎで廃墟はいきょにくるやつなんてマニアやホラー関係者以外にいるのか?」


「いわくつきの建物に無断で入るガキがいまだにいるし、俺達と同じ目的の奴らもいる。そいつらをおどして情報と共に金を巻き上げるだけだ」


「こんな手荒なことしちゃ、俺らがやられそうだけど」


「俺達は自殺を考えた仲だろう?  でもよお、俺達が不況ふきょうで苦しんでいる時にこんな所まできて幽霊やらなんやら信じてるおめでたい奴らとそいつらを利用しようとする奴らを全部まとめておどしてやれば気が晴れて前へ向けると思わねえか?」


「それもそうか。つかまる覚悟でおどせばひよった奴らに一泡ふかせてやれる」


「気にならないか?  本当に人間が泡ふいて倒れる姿?」



〝なら  自分達が  経験してみればいいじゃないか〟


 侵入者は男二人。


 ちょうどいい肩慣かたならしになる。



「だれだてめえは?」


「カメラマン達の仲間か?  お前らが俺達を撮ってたって意味はねえ。有り金全部わたせ!」



 一人の男のほほを何かがかすめた。


「え?  いたっ。いつの間に血が?」


「うわああああ」


 罠を作動させて一人つかまえる。



「人間をつかまえるのは久しぶりだ。俺はやりたくなかったけど害獣がいじゅうを退治してくれと頼まれてイノシシと戦った時はこんなあっさりとはいかなかった。まぬけだよ人間は」


 足を天井につるしてるだけ。

 まるで映画の宇宙人が強い男を狩った後にするように。



「誰だ!  出てこい!」



〝出てきたら  出てきたで  驚くのは  そっちだと思うけど〟



「ぐっ」



「俺達もおどして金をとるんじゃないのか?  腕っぷしに自信がある発言をしておいて二人でこの程度じゃ無計画過ぎる」



 夜の廃墟はいきょ

 理解あるマスコミ。


 そして侵入者。


 試合の時しか顔を見せないもう一人の俺が片腕で男の首をしめる。


 悪く思うな。

 先に手を出したのはそっちだし、証拠しょうこもある。


 どうやったか知らないが俺達を利用して侵入されたのも腹が立つし。


「わ、わかった……はなして、くれ……何もしない」


「そういって何もしない奴らを俺は知らねえ!  つるしておくよ。侵入者!」


 良い絵になると思う。

 なるほど。

 今の気持ちがクリエイターの喜びってやつか。


 俺は動画を収益目的には使わないから分からなかったが。


 それはともかく事件はここで終わった。

 あとは別のプロに任せよう。



*



 管理会社からの依頼は終わった。

 今回は。


 廃墟はいきょはいまだ無数にあって、今回のような治安の悪い事件は消えない。


 そしてホラードキュメンタリースタッフの安全を守ったからか、頭を下げて頼まれた。


「俺がスタッフ?  いや、別の仕事あるんで」


 ドラマになるようなことはしていない。

 むしろ放送が出来ない。


 それでも頼まれてしまった。


「インタビューは自然な感じがいいですか?」


 あの時暴れた俺の姿を弱みにされる可能性もある。

 それでもこのホラードキュメンタリースタッフ達はコンプラを守ってくれそうだ。


『廃墟あとそうじ人』


 いかにもジャパニーズホラーってタイトルセンスにちょっと興味が湧いた。


 これなら他の競技者よりもはくがつくか。


 次はどの廃墟はいきょで人間をつるそうかな。


 新しい楽しみが浮かぶ俺の今の性格は少しだけ、あの夜の俺が顔を出しているかもしれない。

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