私は私を。あなたはあなたを。

晶の華

知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる。それが、ここの第一印象だったような気がする。涼しい。肌を撫でる風たちは、私を歓迎しているように思える。一歩動くと全てが変わってしまうような、そんな儚さを持つ場所。それは、私の祖母の家だった。

「ここが、私の大好きな場所です。」

私は、カメラに向かって言い放った。



「仕事は?何もしないとかニートじゃん。姉ちゃんが、ニートとか笑えないって。」

妹が、いつも通り痛い所を指してくる。黙っていると、

「いいじゃんね。好きなことがあって、それに向かって頑張っているんでしょう?それだけで、立派立派」

深く頷きながら、おばあちゃんが、私を庇ってくれた。年に一度、おばあちゃんの家に行く。おばあちゃんがすごく好きだ。誰かにとらわれることなく、自分を生きている素敵な人。



懐かしい匂いを嗅ぎながら取材に応じていたことを、思い出す。もう、あれから2年。私の大好きな家は、空き家となった。色々なことが、少しずつ変わっていく。それに寂しさを感じながらも、私は今生きる人たちが少しでも温もりを感じていられるように、生き続ける。

「ふってきた。」

ふと思い付いて、ごく自然に筆を執った。

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私は私を。あなたはあなたを。 晶の華 @yakan20

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