突然、親戚のアパートの大家さんを引き継ぐことになった主人公。
大家さんって、何をすれば良いのか……戸惑いながら、思いついてはじめたのは、共用スペースで朝ごはんを作ることでした。
一緒に毎朝、ごはんを食べながら、住人の皆さんと交流が生まれます。
この朝ごはんがとても美味しそう!
特別なドラマチックな出来事は起こらないけれども、日々の暮らしが丁寧に描かれていきます。
住人達のお互いのちょっとした心遣いに、胸の中がほのぼのと温かくなります。
朝ごはんを食べて、今日も一日頑張ろう!
きっとそんな気持ちになれますよ。
素敵なお話です。おススメします。
上司と衝突して会社を辞めた25歳の独身女性・三瀬綾香。実家の伝手で古びたアパート『荒巻荘』の大家を任された彼女は、共用スペースで住民たちに朝食を振る舞うことに……。朝ごはんに集うアパートの住民たちの人間模様を描いたハートフルグルメストーリーです。
朝ごはんを通じて芽生えていくご近所付き合いが優しくて、どこか懐かしいんですよね。綾香が作る朝食は、ごはんに味噌汁、焼き鮭、卵焼き、ほうれん草のおひたしといった素朴な家庭料理。どれも特別なものではないけれど、実家のお母さんの手料理を思い返して温かい気持ちにさせてくれます。
荒巻荘に暮らすのも、ごく普通の人々。口下手だけれどゲーム配信に打ち込む宇津井さん、明るくてアウトドア好きの長岡さん、そして母子二人で暮らすOLママの日浦美穂と小学生の美咲ちゃん。最初はよそよそしかった彼らも、毎朝、同じテーブルで食事を重ねるうちに、自然と会話や交流が生まれていって、みんなで夏祭りに行ったり、海水浴に出かけたりと、まるで疑似家族のような親しい間柄になっていく光景が微笑ましいんです。
昨今、都会では隣人の顔も知らないなんてことが珍しくない。忙しくて朝食を食べない人も多い。そんな世の中で忘れがちな「朝食」と「ご近所付き合い」の大切さを伝えてくれる作品です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)