第2話 種
砂漠に雨が降った。雨はしばらく降り続き、砂漠に川ができた。川は集まって湖になった。熾火の燃え殻は流されて、どんどんどんどん下流へ転がって湖の底でやっと止まった。
眠っていた草の種が次々に芽吹き、砂漠を緑の草原に変えた。日が差すと、つぼみが伸びて一斉に花開いた。砂漠を埋め尽くし輝く白い絨毯となった。めったに見られない光景に、虫たちも鳥たちも大よろこびして蜜をすった。夜になると花たちはそろって閉じてしまうので、空の星はこの光景を見ることができなかった。もし見ていたらどんなに驚いたことだろう。
やがて花びらが散ると、花茎は天へ向かってどんどん伸びた。花茎の先に種ができ、種はどんどん膨らんで白い綿毛に包まれた。 風の吹く日がやって来た。種は一斉に飛び立った。種は大地を離れ風に乗り、遠くの遠くまで運ばれた。そしてあるものは黒い大地の上に落ち、赤い砂漠の上に落ちた。別の種は街の中に落ち、また別の種は湖の上に落ちた。
湖の上に落ちた種は波にもまれ、やがて沈んだ。湖の底の熾火の燃え殻の近くに沈んだ。そして熾火の燃え殻と傍らの花の種は土の中に埋まっていった。
遠くの大地に落ちた種は、あるものは芽吹き競うように大きくなった。芽吹かなかった種は砂の中でじっと眠った。干ばつが長く続くと草は枯れ、雷が火を点けて、野火があたりを焼いた。そして草原は砂漠に戻った。やがて雨が降ると、砂の中でじっと待っていた別の種が目を覚まして芽吹いた。そしてそのサイクルが何度も何度も繰り返された。
深く埋もれた熾火の燃え殻と花の種は一緒に眠った。いつしか湖が干上がるころになっても、花の種は芽吹くことがなかった。
工事人たちがやって来た。地を崩し、平らにならし道を作った。熾火の燃え殻と花の種は地表に現れた。熾火の燃え殻と花の種の近くに車がやって来た。車は熾火の燃え殻と花の種に気づくことなく通り過ぎた。
夜には空の星が見えた。花の種に芽吹く時がやってきた、太陽の熱に照らされて、ゆっくりゆっくり大きくなった。そして、熾火の燃え殻のわきに小さな星型の花を咲かせた。熾火の燃え殻は、小さな星形の美しい花を見てよろこんだ。久しぶりによろこんだ。
「君がお星さまだったんだね」「やっと会えたね」
星型の花は笑ってうなずいた、やわらかな風の中でうなずいた。花は熾火の燃え殻の傍らで毎年毎年、星型の花を咲かせた。熾火の燃え殻は、星型の花が咲くのを毎年毎年待っていた。そして毎年毎年笑った、星形の花も毎年毎年笑ってうなずいた。
物語はこれで終わります。
熾火には名前がありません、あなたの好きな名前を付けてください。熾火はきっとよろこんで、ちょっと光るでしょう。きっと光るでしょう。空の星もきっとよろこんでちょっと瞬くことでしょう。
ここから先は想像の世界です。星形の花を咲かせる草は永遠ではありません。傍らの熾火の燃え殻は、星形の花を咲かせる草が枯れてもずーっと座ったままでした。星形の花の子たちと、たくさんの星形の花の子の子たちと、たくさんのたくさんの星形の花の子の子の子たちに囲まれて。
それでも熾火の燃え殻も永遠ではありません。大地も、砂漠も、道も、雨も、火も、風も、太陽さえも永遠ではありません。ただ空の星だけが、永遠の近くまで輝きつづけました。
熾火(小さな星と小さな花の物語) アイス・アルジ @icevarge
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