『かえりたい』
かごのぼっち
「かえりたい」
ピッ ピッ ピッ……
なんのおとだ?
ピッ ピッ ピッ……
そんなことよりここは?
みたこともないてんじょう
みたこともないきかい
ここはベッドのうえか
しょうどくえきのにおいがする
おんながあらわれて
なにかいっている
なにかいっているが
わからない
そんなことよりも
ここはどこだ?
おれはいえにかえりたい
かえりたい
が
からだがおもうようにうごかない
なんだこれは?
からだにたくさんくだがつけられている
こんなもの!
おんながおこったこえでなにかわめいている
わめいているがどうでもいい
おれはいえにかえりたい
おれはいえにかえりたいんだ
おれはからだにつけられたくだをはずした
そうだ
おれはいえにかえりたいんだ
おんながどこかへきえ
おとこがあらわれた
おとこもひっしのぎょうそうだ
なにかいっているが
わからない
おれはいえにかえりたい
おれはいえにかえりたいんだ
おれはおとこをおしのけた
からだがいうことをきかない
きかないが
なんとかからだをおこす
おとこがしつようになにかわめいている
しかしそんなものはどうでもいい
おれはいうことをきかないあしをひきずり
ただ
いえにかえろうとした
おとこがおれのまえをさえぎる
あたらしくおとこがあらわれる
そのおとこもおれのゆくてをはばむ
おれはあしをひきずり
おとこたちをおしのける
おれはいえにかえるんだ
それのなにがいけない?
おとこたちのかおに
いかりがまじる
なにをおこることがあるのか
おれはいえにかえりたいだけだ
それのなにがいけない?
おとこがふえた
よって
たかって
おれをおさえつけようとする
おれがなにをしたというのか
ただ
いえにかえろうとしただけだ
いえにかえるのが
そんなにいけないことなのか?
おとこたちが
おれのからだを
おしもどし
べっどにおさえつけた
どうして
いえにかえらせてくれないんだ?
いえにかえりたい
かえりたいだけなのに
どうして?
いたい
おとこがおれのうでにはりをさした
ちからがはいりにくい
なぜ
こんなことをされなければならないのか
なぜ
ここまでされなければならないのか?
おれはいえにかえりたいだけだぞ?
からだのしたに
なにかおしこまれる
それをからだにまきつけられた
みうごきがとれない
うごかない
うごけない
いたい
おれは
いえに
かえりたい
だけだぞ?
それの
なにが
いけない?
ここはどこだ
どこだかわからない
わからないが
つまがいる
「あなた……」
おれをよぶ
つまのこえは
どこかよわよわしく
つかれているようだ
なにがあったのか
つまのひょうじょうからは
うかがいしれない
「いえに……かえろう……」
つまはすこし
かなしいかおをして
「ええ、かえりましょうか。あなた……」
ああ
これで
やっと
いえに
かえれる
いえに……
かえれるんだ……
「あなた……かえりましょうね」
そして
「おやすみなさい」
─了─
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