好きという洗脳

燦來

第1話

 三月生まれは不利だと言われやすい。

 四月生まれの子と比べたときに幼さが残ってしまうから。

 幼稚園や小学校の低学年でなくなると言われているが、実際はつま先を伸ばして背伸びしているだけだったりする。

 周りに合わせよう。周りがどう思うか考えよう。

 大人になろうと空気を読み過ぎていつの間にか四月生まれの子よりも大人びて見られてしまう。

 子供時代は、短い方がいいと思われていそうだから。


 桃の節句の日に生まれたから桃という名前をつけられた。

 ランドセルもピンク、洋服もピンクが多め。

 桃という名前の呪縛は恐ろしかった。

 「あなたはピンクが似合うの」

 と洗脳され幼少期を過ごし、小学校の高学年になると

 「そんな子供みたいな色やめなさい」

 と怒られる。

 周りの子が好きそうな水色や紫色を好きになろうと自分に洗脳をかける。

 私は、好きな色さえも自分で選べない人間にいつの間にかなっていた。

 好きなんて洗脳でどうにでもなると思った。

 つま先を伸ばして大人ぶるよりも、ずっと同じものの事を考えて好きと錯覚させる方が楽だった。

 つま先の痛みに気を取られて、壊れていく心に気づけなかったのかも知れない。

 それでも私は、つま先立ちをして好きを洗脳し続ける。

 それが、人に好かれる唯一の術だと思っているから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きという洗脳 燦來 @sango0108

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画