刑事総務課の羽田倫子は、安楽イス刑事でもある その五
久坂裕介
第一話
ゴールデンウィークも終わり、旅行から帰ってきた人々で街にいつもの
「へー、それじゃああなたは、ハワイに行ってきたんだ」
「そうなんですよ。楽しかったですよ、ハワイ。ところで倫子さんはゴールデンウイークに、何をしていたんですか?」
「え? 私?」
私は思わず、答えに
やはり最近、流行っているモノはチェックしておかなければならない。それを読むことによって今、読者が何を求めているのかが分かるからだ。殺人事件が起きるドロドロしたモノか、日常の
それらを
数々の作品のヒントになったであろう、
そして新人職員への答えだが、私は取りあえずごまかした。
「えーと、私はねえ……。私は友だちと、近くの温泉に行ってきたかなー、みたいな……」
「へー、そうなんですか。良いですよねー、温泉」
と新人職員は、
そうして私が新人職員とのゴールデンウィークの話でコミュニケーションを取り終わると、ほっと
そう考えていると、スマホが鳴った。だがそれを、見なくても分かる。きっといつもの、アレだ。でも一応、確認するためにスマホに送られてきたメッセージを見た。『
私は『
だが新藤刑事は、知っている。私が、推理小説を書いていることを。そして何と新藤刑事は警察が解決できない事件が起こると、私にアドバイスを求めるようになっていた。私は推理小説を書いているので、あらゆる事件に
なので私は、行くことにした。いつものところに。私は
いつものところとは、鑑識課の隣にある部屋だ。
由真さんの髪型はショートカットで、いつも通りニコニコしている。そして上下、青いツナギのような鑑識の制服を着ていた。新藤刑事も相変わらず、ムダにイケメンだ。新藤刑事は、イケメンだ。それは認めよう。髪は軽くパーマがかかっていて、
だが彼は、性格に問題がある。彼は口が軽く、いつも根も葉もないウワサ話をしているからだ。私はそういう男を、信用しない。まあ、私と新藤刑事の二人でコソコソと話をしていると
でも私は、負けていないと思っている。私は自分ことを、
そうして見た目なら私も新藤刑事に負けていないぞ、と思いつつ私は聞いてみた。
「私がここに呼ばれたっていうことは、また解決できない事件が起きたんですか?」
すると新藤刑事は、低くよく通る声で答えた。
「ああ、その通りだ」
やっぱり……。あー、これから警察が解決できない事件にアドバイスをするなんて、
「今回は、どんな事件ですか?」
「今回は、ニセ
私は、考えた。なるほど、ニセ札製造ですか。それは、重大犯罪ですね。
それにしてもニセ札事件なら
「それは、重大犯罪ですね。それならそれを解決できたら、どんな
すると新藤刑事は、
「警視庁が、
私は思わず、前のめりになった。
「け、警視庁の裏金?! そ、それは本当ですか?!」
それが本当なら、大問題だ。とんでもないことだ。でも私は、
●
ニセ札の
刑事はすぐに銀行に行き、男をニセ札を使用した疑いで逮捕して取り調べを始めた。その男は都内で家族で小さなコンビニを経営している、
寿男の話によると、今週のコンビニの売上金を銀行のATMで口座に入金しようとしたところ、エラーメッセージが表示されてできなかった。自分が入金しようとしたのが、ニセ札とは知らなかったと答えた。
なので、取り調べている刑事は聞いた。それなら最近、コンビニに
当然、九千円以上のお
そうして刑事たちが調べるとその男は
刑事たちが調べてみるとその
●
私は由真さんが
「なるほど……」
すると新藤刑事は、聞いてきた。
「分かるか? 友一は本当にニセ札を作ったのか、どうか?」
なので私は、答えた。
「はい。友一は間違いなくニセ札を作って、使用しました。
それを聞いた新藤刑事は、私に迫ってきた。
「ど、どうやって友一はニセ札を作ったんだ? 教えてくれ!」
相変わらず新藤刑事は、事件を解決しようとすると熱心になる。そこだけは、
「友一はまず、本物の一万円札を高性能のコピー機でコピーしたんですよ」
すると新藤刑事は、
「いや、確かに友一のアパートには高性能のコピー機があった。でもそれでもやはり、左側にある縦の3Dホログラムはコピーできないぞ!」
「だからその縦の3Dホログラムは、本物を使ったんです」
「は? どういうことだ?」
なので私は、説明した。
「まず、本物の一万円札を高性能のコピー機でコピーします。そしてコピーしたニセの一万円札の左側にある、縦にニセの3Dホログラムが入っている部分を切り落とします。
そして本物の一万円札の左側の3Dホログラムが入っている部分を切り取り、ニセ札と合体させます。こうして本物の3Dホログラムが入ったニセ札が、完成します。
本物の一万円札には他にも様々な
すると新藤刑事は、
「うーむ、なるほど……」
だが次の瞬間、疑問を聞いてきた。
「いや、だがちょっと待て。それだと結局、本物の一枚の一万円札を使って、一枚のニセ札しか作れないぞ。それじゃあ、意味ないじゃないか?」
そう聞かれたので、私は答えた。
「何、言ってるんですか。ちゃんと一枚の本物の一万円札から、二枚の一万円札を作れますよ」
「え? だから、どうやって……」
私は少し、イラついた。
「もう! それなら友一が住んでいるアパートから近くにある、金融機関を調べてみてくださいよ! きっと友一は、そこに行っているはずです!」
私の迫力に
「わ、分かった。それを捜査第二課の刑事に、伝えてくる」と言い残して。
やれやれ。これで
「うーん、でも本物の一万円札を使ってニセの一万円札を作るなら、私も本物の一万円札からニセの一万円札は一枚しか作れないと思うけど?」
なので私は、答えた。
「いえいえ。金融機関に行けば、本物の一万円札になりますよ」
「え?」
「とにかく今日もコーヒー、美味しかったです。それでは」と私も、部屋を出た。
●
昼休み。私は刑事総務課の自分の席で、まったりとしていた。今日のランチも美味しかったと、満足していた。今日のランチは、ドリアだった。ドリアはご飯の上に
スプーンでご飯とクリームソースをすくって食べてみると、クリームソースの
そして具として、チキンとキノコが入っていた。どちらも歯ごたえが良くて美味しくて、栄養も取れる。これを食べて、満足しないはずがない。
そして私は、スマホのメモを開いた。今、考えている推理小説のアイディアを、メモするためだ。今度の推理小説は、異世界が
炎の魔法を使って、
魔法を使って魔王を
と私が考え込んでいると、スマホにメッセージが表示された。『新藤だ。いつものところに今すぐきてくれ』。お、ニセ札事件は解決したのかな? それならば、報酬を受け取らなけらばならない。警視庁の裏金のウワサという、とんでもないネタの報酬を! 私はすぐに、鑑識課の隣の部屋に向かった。
そこにはすでに由真さんと、新藤刑事がいた。私は新藤刑事を、
「教えてくださいよ! 警視庁の裏金のウワサという、とんでもない情報を!」
だが新藤刑事は逆に、聞いてきた。
「まあ、待て。その前に聞かせてくれ。確かに友一は近くの銀行に、一万円札の
職員が調べてみるとその一万円札は確かに本物だったので、新しい一万円札と交換したそうだ。ちなみに交換した枚数は、十枚。つまり友一は、十万円を手に入れたことになる。だが、どうしてそれが分かった? つまり、銀行で新しい一万円札と交換したことを」
私はまず、答えた。
「なるほど、十枚ですか。つまり友一は本物の一万円札十枚から、二十枚の一万円札を手に入れたことになります」
それから私は、説明した。
「友一が一枚の本物の一万円札から、二枚の一万円札を作った方法はこうです。まず高性能のコピー機で、一万円札をコピーします。でも左側の縦の3Dホログラムは、コピーできません。なのですぐに、ニセ札だとバレてしまいます。そこでその部分を、切り取ります。
そして本物の一万円札から左側の縦の3Dホログラムの部分を切り取り、コピーしたニセ札と合体させます。これで見た目には本物の、ニセの一万円札のできあがりです。お札を読み取るタイプのレジを使っていない店では、使うことができるでしょう。お札を読み取るタイプのレジだと、ニセモノだとばれるので。
そして、左側の縦の3Dホログラムを切り取った本物の一万円札が残ります。このままでは使えないので、銀行で交換してもらう必要があります。なるほど、新藤刑事の話だと友一は、切り取った部分をライターか何かで焦がしたようです。
そうして銀行で、新しい一万円札と交換しました。火事で一万円札を
そうやって友一は、見た目では本物に見えるニセの一万円札と本物の一万円札の二枚を、一枚の本物の一万円札から作ったんです」
それを聞いた新藤刑事は、
「うーむ。捜査第二課の刑事から話を聞いたが、確かにその通りだった……」
新藤刑事が納得してくれたようなので私は再び、新藤刑事を急かした。
「それじゃあ、教えてくださいよ! 警視庁の裏金という、とんでもないウワサを!」
すると新藤刑事は、あっさりと答えた。
「ああ、それか。警視庁総務部会計課に聞いてみたんだが、そんなモノは無いとハッキリと言われたよ。はっはっはっはっ! 良かったな、警視庁はクリーンな組織だぞ!」
なるほど、そうきたか。そりゃあ会計課に聞いて、裏金がありますとは答えないだろう。そうじゃなく私は、どこから警視庁の裏金というウワサが出てきたのかを知りたいのだ。そう聞いてみたが、やっぱり新藤刑事はあっさりと答えた。
「えーと、どこから流れてきたウワサだったかな?……。うーん、忘れたよ! はっはっはっはっ!」
そして新藤刑事は、この部屋から出て行った。うなだれる私と、今回も事件が解決したと喜んでいる由真さんを残して。またしても推理小説のネタにならないウワサに
「え? これって何ですか、由真さん?」
すると由真さんはいつも通りニコニコしながら、答えた。
「今回も、こうなるんじゃないかと思ったのよ~。つまり新藤刑事から報酬を、もらえないんじゃないかと思ったの~。だから今回は、私から報酬をあげるわ~」
私は右手を差し出して、青い薔薇を受け取った。それは中心部は
そして由真さんは、説明した。
「青い薔薇の
そう言われて私は少し、涙ぐんでしまった。そうか、私の努力をちゃんと認めてくれる人がいるんだ……。そんな予想外の報酬をもらって完全に元気が出た私は、由真さんにお礼を言って刑事総務課に戻った。
それでも私は、ため息をついた。友一は一体、どの
刑事総務課の羽田倫子は、安楽イス刑事でもある その五 久坂裕介 @cbrate
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