星は見えても流れなかった。

夏生 夕

第1話

2:35 つま先の感覚が無い。

もうこのまま、流れ星を見ることはかなわないのだろう。

最後に深く夜の空気を吸い込み、白く吐き出した。星々がぼやける。


窓を閉めて室内に引っ込むと、床もキンと冷えている。

足の裏では冷たさを感じても、つま先はそれ以上に冷えきっていて感覚が分からない。

こんなに繊細な末端のつま先、

真っ先に刺激に曝され、曝され続けるといつか麻痺するものだと教えてくる、つま先。


両手で覆ってなんとか溶かす。



2:27 静けさに似合わない無粋なくしゃみをかます。

いくら羽織っていても、肩は冷えて、足先からも冷たさが昇ってくる。鼻をすすると痛い。

自然発生的に目の端から零れた涙は、流れ出た瞬間は温かいのに、頬を伝い終わる頃には冷たい風を助長する。


身震いして見上げても、白い点が在るだけで時間が止まっている。



2:15 近所の犬、やかましいほど元気だな。

普段深夜に吠え続けていることなんか無い。だからこんな声のが近くで飼われて住んでいるなんて知らなかった。


どこだどこだと判明する宛のない鳴き声の出処を視線で探すと、歩道に通行人を発見した。

おぅい、おっちゃん。

寒いだろうが首を埋めず見上げてみろと言いたい。普段なら自分もあちら側だなと思うと不思議だ。

夜空に光るこの星々は、常にそこに在る。

顔を上げさえすれば、曇っていても一番星くらいは見えているんじゃないだろうか。



2:08 部屋の電気を消して窓を開けると、耳鳴りの瞬間のように音が無かった。

冷たい割にやさしい風に誘われて夜空を見上げると、驚いたことに一面の星だった。

何故驚いたかと言えば、こんなに綺麗だとは思っていなかったからだ。

普段、花火大会は中継で十分・オーロラは絵葉書で足りるなど浪漫の無いことを言って周囲をげんなりさせているが、今目の前に見上げるこれは、感動と言ってよいほど心が跳ねた。


思わずつま先立って背筋も伸ばすが、疲れるだけで星に近付きゃしない。

夜空は大きな隙間も無いほど白い点で埋まり、それぞれが、なるほど形を成しているように見える。

あいにく星座に詳しくない。

詳しい者も、隣にはいない。


ただただ綺麗である。



1:58 そろそろ頃合いでは。

流星群、と聞いても、普段ならその時間を狙って待つことはしない。

しかし年末年始。

少し心にゆとりもあって、にも関わらず少し疲弊していて、

癒しへの淡い期待を持ち静かに深夜を待った。

おかげで積ん読を一冊減らすことが出来た。


一枚ブランケットを引っ掴んで肩を覆った。



0:02 1ページ目をめくる。

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