宇賀華四郎の日記

白川津 中々

◾️

人を殺せるようになった。


気に入らない人間を頭に浮かべ「死ね」と呟くと、数秒後、実際に想像した人物が死ぬ。


この異様な現象に気づいたのはつい先日。担任の赤松が「遅刻の罰だ」と言って殴ってきたので、席に戻ってから「死ね」と呟くと、バタリと倒れた。救急車が呼ばれ病院に搬送されたものの死亡が確認。死因は心不全となっている。

この時、とんだ偶然があったものだと冷静に考えながらも、もしかして自分が赤松に死を与えたのではないかという疑心があった。物は試し。別の人間でもやってみようと思い立ち、テレビの討論番組に出ていた政治家を頭に浮かべ「死ね」と呟くと、やはりバタリと倒れ、翌日心不全で死亡と報じられた。


これはいい特性を持ったぞ。


そう考えた僕は気に入らない人間を殺して回った。貸したシャーペンを壊した笛木くん、何かにつけて嫌味を言ってくる増田くん、嫌な目で見てくる近内、「汚い」と言ってきた春野、アニメの話しかしない横井くん、占いに傾倒している花里、下品に笑う角倉、休み時間に動画を撮影している野崎、学級委員の白石、うるさい近所のババア、徘徊している気色の悪いジジイ、死んだ顔で通勤しているうだつの上がらないサラリーマン、愚痴を言うだけで自分は何もしないアルバイトの女などを殺した。


爽快だった。

痛快だった。

皆、僕の一念で死んでいく。これ程気持ちのいい事があるだろうか。まるで世界の王にでもなったような気分となり、僕の人生は輝いていた。


一方、死んだ人間の家族は悲しみに打ちひしがれて悲痛極まりないという風だった。特に、殺したクラスメイトの親は一様に塞ぎ込み葬式の最中にも取り乱し泣き叫ぶ始末。終わった事なのに、くだらないなと、なんならこの場で殺してやろうかなと思った。人に対して不快な想いをさせる方が悪いのだ。そんな子供に育てた方が悪い。偉そうに泣くな。


これは恐らくだが、僕と同じ特異性を得たら皆同じくらい簡単に人を殺すだろう。それだけ気に入らない奴が世界には多いのだ。だから僕はこれからも人を殺していく。僕が好きな人間だけ生かされる世界を作ってやる。あぁ、この先が楽しみだ。嫌なら僕を殺してみろ。頭の中で名前を浮かべ「死ね」と言ってみるといい。けれど、どうせできないんだ。僕だけが特別なんだから!







……宇賀華四郎の日記にはそのように書かれていた。傍には、彼の死体が転がっている。

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