人生最大のラブレター
@siawasenomichi
第1話 はじめに
車を走らせて1時間半。
本来なら1時間で着くはずだったのに道をたくさん間違えた。
ナビを見るのはどうも苦手だ。
そういえば、1人で高速道路に乗ったのは初めてかもしれない。
いつも隣に誰かいて、誰かが助けてくれていた。もしくは、いつも誰かの隣に乗って楽しく景色を眺めていることの方が多かったかも知れない。
途中でBluetoothが切れた。
車の中は無音となった。
曲を聴いたのは久しぶりだったけれど、無音となった車中は、今までより更に心に穴が空いたような気がして寂しさを圧倒的に強くさせた。
お台場海浜公園の駐車場に車を停めて、スタバで時間を潰して、どうにも長く感じるこの時間を、どうにかして進めたい気持ちを抑えていた。
平日だからか空いている。
ディカフェにしたフラペチーノを片手に、レインボーブリッジを眺めて歩く。
犬の散歩をしている人、無邪気に走り回る子ども、海外の観光客、肩を寄せ合って海を眺めるカップル。
どれも当たり前の日常で、こんなにも平和な世の中なのに、私の心はどす黒く濁っていて、心も真っ暗で、1人取り残された気持ちになった。
水上バスからたくさんの人が降りてくる。
長年連れ添ったであろう老夫婦は残りの人生の思い出作りだろうか。
若い時にも同じように水上バスに乗ったのだろうか。
結婚生活は何年続いているのだろうか。
その間にどんな試練や経験があったのだろうか。
そんなことを考えながら私は時間が過ぎていくのをただ、ただ、ぼーっと待っていた。
時間が過ぎたところで、何も変わらないことはわかっている。
なんのためにここにいるのか、時間が経てば何かが変わるのか、気持ちが晴れるのか、前を向けるのか、答えの見えない、正解のない時間をただ私は1人海を眺め、ベンチに腰を下ろして過ごした。
カバンについているマタニティマークを少し隠して、罪悪感を持ちつつ、心の中でたくさんのごめんねを繰り返し、IQOSを手に取り海を眺める。
もうすぐ日が落ちる。
美しく、心地よい空気の中、私は自問自答をして、それを払拭して、また考えて、無限のループを何度も行き来している。
人はどうして恋をするのだろう、
どうして人を好きになるのだろう、
どうして結婚をするのだろう、
どうして永遠がないのだろう、
どうして過ちをおかすのだろう、
どうして簡単に人を嫌いになれないのだろう、
どうして自分の気持ちを我慢できないのだろう、
どうして簡単に人を裏切るのだろう、
どうして、どうして、、、
答えの出ない【どうして】がずっと頭の中を巡っては、消える。
♪
ママからのLINE。
『夕陽が綺麗だよ』
昼に『今日はもう大丈夫だから連絡しないで』
そう突き放したのに、心配で連絡くれたママ。
見てるよ、私も、綺麗だなって思って眺めてるよ。心配かけてごめんね、弱い娘でごめんなさい。強く育ててくれたはずなのに、泣き虫でごめんなさい。
1人で海見に来てるよ、なんて言えるはずもなく、
『気分転換したからまた頑張るよ。ありがとう』
精一杯の強がりをLINEに打ち込みながら、ママの優しさに泣いた。
涙が出た。
世界で1番尊敬していて、大好きな存在。いつでも味方でいてくれる存在。
もう30歳をすぎた娘なのに、手をかけてごめんなさい。
心配かけてごめんね。
『ごめんねはいらないよ』
この前そう言われた。その言葉に、申し訳なさと、私の中に、まだ微かに残っている強い意思の光が灯りを灯したような気がした。
時刻は午後6時を回っていた。
4時間もベンチに座っていたのか。
あんなに時間が早く過ぎればいいのにと思っていたのに、あっという間に時間が過ぎていたことに驚いた。案外1日って短いのかな。
無気力になった毎日は、長くて暗くてとてつもなく苦しい。久しぶりに時間が経つのを早く感じられた今日は、少しだけ、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
その時、ポコってお腹が動いた。
私の味方はこんなにも近くにいることに気がついて、また涙が出た。
結婚6年目、32歳。私は、夫に不倫をされました。現在妊娠8ヶ月です。
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