第3話 孤独
妊娠をしっかりと実感するには、かなりの時間を費やした。
なんてったって、心がとんでもないくらいに不安定になったから。
これからのことを考えると、感じたことのない大きな不安に駆られたし、体調も良くなくて、自然と涙が出ることも増えた。
情緒が不安定になった。
病院受診後に、ママと妹とご飯に行った。
おめでとうの会として、近くのファミレスでご飯を食べて、ママは野菜やらカルシウムやらたくさんの買い出しをしてくれて持たせてくれた。
愛を感じたし、まだまだ私は母になりきれていないなって思った。
ご飯の後、1人で母子手帳を貰いに行った。
保健所の人は優しくて、おめでとうと言ってくれて、
不安なことありますか?
て聞いてくれて、何だかここでも涙が出そうになったんだ。
なんでだろ?なんでこんなに不安なんだろう、わからなかったけど、とにかく不安でとにかく辛かった。
可愛いキャラクターがプリントされた母子手帳を見て、少し実感が湧いた。
単純にすごく嬉しかったのを覚えている。
それからしばらくして、私の心はもっと荒れてつわりも始まった。
とにかく気持ち悪い、
お腹空くと気持ち悪い、
そして匂いがダメになった。
シャンプー、柔軟剤、芳香剤、食器用洗剤、お気に入りの思い出の香水もつけられなくなった。
家のものは全て無香料に変えた。
出かけることもほとんど出来なくなったし、仕事も早退が続いた。
気持ちも荒れて、夫に何度も冷たくした。
分かってほしくて、察してほしくて、寄り添ってほしくて、冷たくした。
なぜか分からなくて涙が出たとき、おいでって抱きしめてくれた夫。
優しく大丈夫?
て聞いてくれていた夫。
夫なりの優しさをたくさん感じていたはずなのに、もっともっと寄り添ってほしくて、それでも甘えられなくて、助けてが言えなくて、1人で辛い思いをしている気がして、とにかく泣いたし、とにかく寂しい気持ちになった。
何で甘えられなかったんだろう、何で夫に素直に気持ちを伝えられなかったんだろう、大きな後悔が今となっては多すぎて、今考えただけでも胸がいっぱいになる。
夫は、決して今までと何も変わってない。
変わったのは私の心と気持ち。
それなのに孤独感しか感じなかった。
家のことやれとかご飯作れとか、そんなこと言われたこと一度もないのに、やらないとっていう気持ちが抑え切れず、こんな辛いのにやってるんだ!っていう謎の強い気持ちで毎日辛いのに無理をした。
夫が飲みに行く時も、あからさまに冷たい態度をとった。
時には、行けば!と強くあたった。
自分で言ったことなのに、そのあと精神的に吐き気がきて、トイレで何度も吐いた。
寄り添えてなかったのは私だったんだろうな。
自分が出来ないことが増えて、そのストレスと孤独感を夫にも押し付けようとしてたんだろうな。
酷いよね。
勝手に一緒に乗り越えるものと思ってたけど、私の一方的な思いを押し付けて、向き合おうとしていなかったんだと思う。
『俺、気遣ってるつもりなんだけどな、、、足りないんだろうな』
って寝る前にぼやいてた時があった。そんなことないよ、心の中で思ったのに伝えられなかったし、
『そうだね』
と冷たく返した。
今思えば、私のつわりもあって、2人で出掛けられないことも増えて、寂しいのは夫も一緒だったよね。
よく男性は、生まれてからじゃないと子どもが出来たことを実感しにくいと聞くことがあった。
でも、本当にそうだと思う。
だって何も変わらないもん。
当たり前のことなのに、どんどん変わる自分の身体と気持ちに負けていたのは自分だったんだと実感した。
だんだん落ち着いてきて、久しぶりに2人でちゃんと出掛けたのは8月頃だったかな。
少しお腹も出てきて、胎動もうっすら感じるようになった。
まだつわりは完全に治っていたわけじゃなかったけど、楽しかった。
ちゃんとメイクして、黒のワンピースを着て、夫の誕生日にプレゼントした、デジタルカメラを片手に、2人で出掛けた。
幸せだなって。
私は、夫の笑顔が好き。
夫はたくさん笑わせてくれるし、たくさん幸せをくれる。夫が笑ってると、私も笑顔になる。夫の笑顔が次第に、このお腹の子に向けられるんだなって感じて幸せな気持ちになったっけ。
初めての花火大会にも行った。
6年も一緒にいたのに、ちゃんと花火大会には行ったことがなかったのだ。
大きな花火は綺麗だったし、歩くときに手を繋いでくれた夫の優しさにどきっとさせられて、私はまだまだ夫に恋をしているんだなって思った。
嬉しかったんだ、気にしてくれてるんだなって感じて。
孤独を感じていた妊娠期間は、私の気持ちの孤独で、夫はいつも向き合ってくれていたんだと思う。
弱くて素直じゃない自分を心から憎む。
仕事が忙しい夫にもっと一緒にいてほしいって何度もLINEで送ったし、冷たいこともたくさん言ってしまった。
夫も仕事が軌道に乗ってきて、目標もあって、1番近くで応援したいのに、自分の気持ちを押し付けた。
夏が終わって、やっと落ち着いた私のつわりと気持ち。
ゆるやかで穏やかな気持ちになったし、妊娠していることへの実感も強くなったし、何より幸せだなって感じることが増えた。
名前どうする?
なんて話をしたり、アカチャンホンポに何度も行ったりなんかもして、とにかく幸せだった。
私の体質は今までとガラッと変わって、食事も毎日楽しみになったし、食べるものにも気を遣った。
妊娠前は甘いものが大好きだったのに食べられなくなった。
私はもともと子どもは
『男の子がいい!』
と思っていた。
絶対男の子がいい!
そんな気持ちだったのに、妊娠が分かってから
『あ、女の子だこの子』
っていう絶対的な確信があった。
何故だかは分からないけど、これが母の勘なのかな。夫は男の子かなあて言ってたけど。
性別がわかって、やりたかったこと。ジェンダーリビール○○。
本当はケーキを作りたかったのだけど、甘いものが食べられなくなった私は、おにぎりを用意した。
女の子なら梅干し、男の子だったらこんぶ。
簡易的なものだったけど、作ってる時はドキドキしたし、ワクワクした。
オリジナルのBOY or GIRLの旗も作って裏には夫へのメッセージも書いた。
夫は早く知りたがってたっけ。
焦らしてたから、ドキドキしてただろうなあ。
エコー写真も一緒に。
夫はカメラを片手に嬉しそうに、ドキドキしながら写真を撮ってた。
結果は、女の子。
喜んでくれた。嬉しいって何度も言ってくれた。私も嬉しかったよ。
『いつかパパの悪口一緒に言ってやる!』
って言ったけど、1番やりたいのはパパの取り合いかな。(負けちゃう気がするけど。)
それでも、ママはこんなにもパパを愛しているんだよって伝えたいし、あなたはママとパパが愛し合って生まれた大切な子だよって伝えようって心に決めたんだ。
改めて、パパとママの所に来てくれて、選んでくれてありがとうって心の底から思った。
それからは特に何もなく、毎日が過ぎていった。
1つあったとするなら、友達が主催の大きな飲み会。
時々仲の良い友達グループやそのまた友達なども呼んで開かれる、昼からお酒を飲むことが定例会となっていた。
妊娠前は私も参加したことがあって、昔からの友達からの誘いということもあり、私たち夫婦はほぼ毎回声がかかっていた。
今回は私が妊娠していたため、夫にのみ声がかかっていた。
夫は毎回楽しみにしていたし、参加するんだろうなと思っていたけど、ここでも素直になれない私は
『行ってきてもいい?』
の言葉を待ってた。でもそれが聞けず、曖昧な感じで、私も冷たくあたってしまって1度もめた。
『行ってらっしゃい、迎えに行くからね』
て送り出したいのに、本当に自分でも呆れるくらい私って素直じゃないからもめるほどのことでもないのに言い合いをした。
結局行かせるのにね。
お互い気持ちよく送り、送り出されができればいいのに。
今となってはやっぱり行かせなきゃ良かったって後悔してるのだけど。
これも今までの私の態度がいけなかったのかな。
孤独と反省と後悔を今でも強く思い出す。
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