第4話 不倫
夫が夜家を出ることが多くなった。
仕事が忙しいって。
仕事後、家でも仕事をしている姿も見てたし、忙しいのも分かってたけど、中々理解してあげられなかった。
次第に、仕事終わり帰ってきてご飯を食べてお風呂を入って家を出ることが増えた。
初めはその仕事も終えたら家に帰ってきてたけど、睡眠時間を削られている夫を見て苦しくもなり、そのまま仕事に行かせることに了承するようになった。
2日間続けていない日もあったり、私が体調悪いのにいない日もあったり、私の精神状態もまた不安定になっていった。
それでも夫は優しかったし、行ってきますのキスも毎日欠かさずしてくれた。
寝る前のキスも。
妊娠してたけど、愛し合うことだってあったし、寂しいけど何度も応援しないと、我慢しないとって言い聞かせた。
それでも寂しくて不安になって冷たくもしたけどね。
いつからだったかな、それは突然だった。
2.3週間愛し合うことがなくなった。
理由は、『怖いから』って。
もちろん、大切にしてくれていることは伝わってきたし、私もそうだなと思っていた。
でも、段々大きくなっていく自分のお腹を見て時々、魅力がなくなってきたかなとも感じて悲しくなった。
マタニティ用の下着はやっぱりどう見ても女としての魅力は薄れる。
私はお腹が大きくなることは、
『神秘的だよね!』
と夫に話すこともあったけど、やっぱり女として、ではなく母としての1過程なんだろうな妊婦って、とどこかで分かってもいた。
だから何度も伝えたよ。
『私子ども生まれたらまた可愛い下着つけるよ!痩せて頑張るね!』
て夫は笑ってたけど、私は本気だった。
だって愛してるから。
愛されたいし、女として見てほしいって思ってるから。
それから、何度も釘を刺したつもりだった。
『妊娠中の浮気率ってすごい高いんだって〜』
って。
だって、まさか自分の夫が、なんて思わないでしょ?
うん、思わないよ。
思ったことなかった。
疑うことはあっても、ここまで一緒にいてくれた夫、愛してる夫、私を選んでくれた夫。
浮気なんてあるはずないよって、今思えば、言い聞かせてた部分もあったのだと思う。
それでも、やっぱりおかしいなって思うことはいくつかあって、疑心暗鬼になったり、冷たくしたり、それでも夫の言葉を信じた。
相変わらず素直になれない私だったけど、精一杯信じて応援しているつもりだった。
そこから発覚まではあっという間。
どんどん真っ黒な証拠が見つかって、どんどん私の心は廃れていった。
夫と顔を合わせることが嫌になったり、自己啓発本なんかを調べたりもして、自分を高めて頑張ろうって思ってたし、夫にも言わず自分を磨かないとって必死に我慢したし、堪えた。
でも、これが突然プツンと切れた。
その日、夫は仕事で急遽残業があると言った。遅くなる、と。
いつも途中で連絡をくれていたのに、その日は夜中に途絶えた。
ほとんど眠れることなく朝を迎えて、電話も出ない、LINEもない、私の頑張りの糸は脆過ぎて切れちゃったんだ。
もちろん何かあったんじゃないかって心配にもなったけど、それ以上に夫がどこかにいっちゃう不安でおかしくなって、私は手当たり次第の連絡手段を考えた。
その時、見ちゃったの。
携帯と同期されたパソコンに相手とのメッセージがまだ残されてて、絶対言わないと決めていたのに、不安でおかしくなってまだ言わない、全部見ないと決めていたのに見てしまったメッセージ。
毎日会っていたんだね。
愛し合っていたんだね。
私といる時もその子のことを考えていたんだね。
現実から目を背けてたけど、一気に前を向けなくなった。
自分でもおかしくなっているのは分かっていて、現実を突き付けられて、私がそれでも感じていた夫との幸せの時間は、夫は私に向けた幸せではなく、相手に向けてだったんだ。
一緒にいた時間、私のことより相手を想っていたんだね、たかが浮気、たかが一瞬の感情、そう言い聞かせても私の心は治らず、ついに夫にぶつけてしまった。
その時の気持ちは、怒り、でもなく、悲しみ、でもなく、なんだろう。
疑問が大きかったかな。
どうしてって思った。
ずっと勘づいていたし、ある程度の証拠も持っていたけど、目を背けていた根本的な生々しいメッセージのやり取りは、私の心にドッカーンって、大きくて深くて、爆大な穴を開けた。
その時、夫から一本の電話。今すぐ帰ってきてと怒り口調で伝えた。
そっから夫が帰ってくるまでは、そわそわして落ち着かなくてどうしていいかわからなくなった。でも、涙は出なかった。あんなに泣き虫で弱虫の私なのに、涙は出なかった。不思議だね。こんな感情になったのは初めてだったかもしれない。
40分後、夫が帰宅。疲れて眠そうな夫、きっと
『どこにいたの!なんで連絡くれないの!』
ってことに怒られると思ってたんだと思う。ソファに渋々座った夫に、私は突き付けた。
『ねぇ、これって誰?』
って。明らかに名前を変えて登録をしていた夫。驚いた顔をしてたけど、同時に何かを諦めたような顔にも見えた。
ーーーーー夫は、何も言わなかった。
心のどこかで、私は期待してたんだ。
『ごめん、これは遊びだった。本当に好きなのはお前だから。もうしないから、許してほしい。』
どこかのテレビや小説で聞いたことのあるようなセリフを、私は聞けると思って期待してしまっていたの。
そんな現実、もしかしたら滅多にないのかもしれない。
不倫🟰離婚の定義がどこかで出来上がっているのかと錯覚したかのような時間だった。そんな言葉が聞けるわけもなく、謝罪もなかった。
でも、
『遊び』
と夫がつぶやいたのを聞いて、心のどっかで、ほんの少しだけ、ほんの数ミリだけ、爆大な穴の一部が塞がった気がした。良かったと思った。
どこの人なのか、いつからなのか、知っているのに夫の口から聞きたくて、聞き出したくて、問い詰めたけど、夫は口を開かなかった。
相手は先日、友達主催の飲み会に初めて参加した女の子。
ね、行かせなきゃ良かったって心から思ったんだ。
素直に今回は行かないでって言えば良かったんだ。
その後、ただ一言、夫の口から
私との離婚は考えてたことはある、と。
ショックだった。ただ、ただ、ショックだった。
私、あなたといて離婚なんてワード出てきたことあったかな、と考えてしまったよ。
相手とは切ってもらうことを約束したけど、話し合いは中々進まず、私は夫にこう伝えた。
『私は、とにかくショックで悔しくて悲しくてどうしようもないけど、それでもあなたといたい』
これは率直な意見だった。
『そんな気持ちであなたと結婚なんてしてない。あなたはそんな気持ちだったの?子どもだって出来たじゃん。堕したことも後悔たくさんしたし、待たせてごめんって気持ちもたくさんだった。それでも2人で喜んだよね?』
自分の気持ちがどんどん出てきた、というより溢れ返ってたのだと思う。台本のないセリフが私の口から溢れていった。
『私に対しての気持ちはもうないの?戻ってこないの?赤ちゃんどうするの?私はあなたに1番最初に抱っこしてほしい。』
夫は、こう言った。
『気持ちはゼロなわけじゃないし、子どもは本当に楽しみ。』
ちょっと安心した。また数ミリだけ、穴のどこかが塞がった気がした。
『私と相手と何が1番大切なの?』
この質問に夫は
『子ども』
って答えた。
どこかで、やっぱり【私】の選択肢を選んでくれたらと悔やみもしたけど、子どもを大切に思ってくれてる事実は本物なんだって確信した。
解決のない、出口の見えない話し合いは、淡々とは進まず、1時間、2時間くらいかな、快晴で暖かい陽の光が差し込むリビングに夫と私はいた。
多分ほとんどは沈黙の時間。
私もどうしていいか分からず、どこに終着点を置いたらいいのかも分からず、ただ時間が過ぎていった。私はこの終わらない話し合いの中で、1度だけ涙が出た。
『相手とは切るけど、相手には何もしないでほしい。それから相手の家に忘れ物がある。』
その言葉で涙が一気に溢れ出た。
家に自分の物を置いてくるくらい、会ってたんだね。会う約束があったんだね。
会う口実もあるんだね。
どうして相手をかばうの?
私のことは守ってくれないの?
分かっていたのに、溢れ出た涙は大粒で、声に出して泣いた。
ただ『なんで』という言葉と共に。
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