つま先って呼んでね。

藤泉都理

つま先って呼んでね。




 つまとは、刺身の横や手前に添えられているものの総称です。

 代表的なものは、大根、大葉、穂紫蘇、パセリ、赤芽などの野菜類をはじめ、ワカメやトサカノリなどの海藻類、菊花や波防風などの季節の花があります。


 つまを漢字で表すと、「褄」。

 褄は端という意味があり、刺身の端に添えられているものを表します。

 しかし現代では、器の中央に褄を置く事もあるので、この漢字が使われる事は少ないようです。


 つまには、盛り付けを華やかにする、口直しになる、刺身の鮮度を保つ、殺菌作用の為などさまざまな効果があります。




「時に大根になって、時に大葉になって、時に穂紫蘇になって、時にパセリになって、時に赤芽になって、時にワカメになって、時にトサカノリになって、時に菊花になって、時に波防風になって。私が刺身のように繊細でありながら奥深くあらゆる可能性を秘めている君たちを華麗に清潔に勤勉に優秀に気分転換をしながら、端で導くエリート中のエリート。を目指しているので、私の事は「つま先生」略して「つま先」って呼んでねって言う自己紹介はどうかな?」


 公園のフェンス前にて。

 今年の四月に小学校の教員になる予定の北大路実光きたおおじさねみつはトレードマークのリーゼントを片手で軽く叩いたのち、北大路実光とは違う小学校の教員になる予定の幼馴染、天王寺智子てんのうじともこにバチコンっと熱を込めてウインクをしては尋ねてみた。


「いいね」


 天王寺智子は親指と人差し指で顎の先をやわく抓みながら、真顔で言った。


「私もそれ、頂いていいかな?」

「いいね。目指しちゃおうか。西小の「つま先」と東小の「つま先」」

「とてもいいね。目指そう。私たちでエリート中のエリート、AIを駆使した授業を華麗に清潔に勤勉に優秀に気分転換をしながら端で導こう」

「導こう」


 ガッシリ。

 焦がれる握手を交わし合っては、北大路実光はリーゼントを、天王寺智子はソバージュを軽く払ってのち、背を向けて歩き出したのであった。


「ただし、無理はしないように。お互いに連絡はこまめに取り合おう」

「ああ、無論だ」











(2025.1.3)



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