つま先星人

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つま先星人

『君達のミッションは地球以外の人間の住める惑星を見つけ出し、人類の種を残すことにある。君達が人類の希望だ! 健闘を祈るぞチームアーク!』


 リモコンを操作して映像を消す男。

 コックピットに座った男の胸ポケットにはジョンと名前が書いてある。


「希望って言われてもな……もうすでに僕1人になったんだよな……な、アリッサ」


 隣の副操縦用のコックピットには制服を着たアリッサと書かれた名札をつける骸骨が座らされカクンと頷いた。


「そろそろ光エネルギーの充電も出来た頃だしワープも使える。気温と酸素が含まれた惑星の目星も付いてる。アリッサ、ロケットもそろそろ限界にきてる……それでも飛ぶべきだと思うか?」


 ジョンはそう聞くと、黒いストッキングを装着した右手を上げた。


『大丈夫よジョン! 人類の遺伝子の為にも飛ぶべきよ!』


 右手をヘビのようにパクパクさせてジョンは裏声を出しながら話すと、彼は1人で続けた。


「もし……このワープに機体が耐えられなかったらぺしゃんこだ。それでもやるのか?」

『大丈夫よジョン! もうサムもマリアも私も死んでしまったわ。もう失うものなんて無いでしょ』

「アリッサ……僕は上手くやれるだろうか?」

『私は貴方のことを応援してるわ! 愛してるジョン!』

「僕もだアリッサ!」

『ジョン!』

「アリッサ!」

『ああん♡ ダメよジョン♡ 仕事中にそんな♡ 皆見てあぁん♡』


 ジョンとストッキングのアリッサが濃厚にキスをし合う、ひとしきり終えた後。


「……ふふ、ははははは! あーあ、もうどうにでもなれ!」


 腹を抱えながらジョンがスイッチを押すと周りが光に包まれた。




☆★☆



「……はッ!?」


 ジョンはコックピットで目を覚ます。

 外を見る青い空と黄色い砂漠が広がっていた。


「惑星に……不時着したのか?」


 すぐさまジョンは装置を起動していくと、画面に文字が表情される。


「外気温度問題無し。放射能も問題なし。酸素濃度21%。毒素……無し」


 非常に地球へ近い惑星に到着した。


「やったぞアリッサ、なんか着いた! 生き物がいるか探索に出かけるよ!」


 ジョンは船内を駆け回り準備をし終える。


「サム、マリア! 留守番頼む! アリッサの身体を見ておいてくれよ!」


 椅子に座らさせれた骸骨2人に手を振りジョンは宇宙服を着ず、一応酸素マスクと武器を用意してハッチを開けた。


「……あ」


 ジョンの目の前に奇妙な生命体がいた。

 それぞれ大きさの異なる5つのコブをつけた肌色物体。

 大きさは人間を横たわらせたサイズ。

 コブにはそれぞれ亀の甲羅のように硬そうな物がくっついている。

 ジョンがハッチから出てくるなり、何処が頭かわからないが怯えているように後退りしてこちらの様子を伺っているように見える。


「……父さんのつま先の形に似てるな」


 謎の生命体の形に率直な感想をのべるジョンは、慌てず行動に出る。


「ちょっと待ってくれよ、つま先星人さん。今翻訳機の準備をするから」


 片耳にイヤホンをつけ彼は話しかける。


「あー……やあ、セクシーなハニー。今日も良い天気だね。一緒にお茶飲まない? あ、この星ってお茶あるの?」


 すると機械音ながら片耳から女性の声が聞こえてくる。


〘え……言葉通じるんですか?〙

「イェス!」


 ジョンは言葉が通じた事にガッツポーズを決める。


「そう、翻訳機を使ってるんだ! 僕の名前はジョン! 君から見ると宇宙人。この右手に付いてるのはアリッサ! 君はこの星の人?」

〘は、はい、ジェシカと言います。わぁ、宇宙人って本当にいたんだ!〙


 つま先星人は見かけによらず愛嬌があるなとジョンは思った。


〘なんか神様みたいな姿ですね〙

「神様? 僕の事?」

〘はい、昔からある神像の姿に似ています。もしかして神様だったりして!〙

「いやいや、神様なんて言い過ぎだよ。僕は地球から着た末端だ」

〘へー、チキュウって所から来たんですね〙


 見た目のグロテスクさとは裏腹、非常に友好的なつま先星人。

 ただ、ふとジョンは思った。


「さっきジェシカ、君が言ってた神像って近くにあるのかい?」

〘はい、ありますよ〙

「ちょっと見せてもらって良いかな?」

〘わかりました! 案内します!〙


 モゾモゾとジェシカは動きだしジョンはついていく。




☆★☆



『ちょっとジョン! なんであんな宇宙人に道案内させてるの! もっと警戒するべきよ!』

「アリッサ?」


 突然、ストッキングを装着した右手とジョンは話し始めた。


「大丈夫だって、ジェシカちゃんは友好的だし、騙してる様子もない。ちょっと確認したい事があるんだ」

『確認したい事? さっき神像を見せてほしいって言っていたわよね?』

「ああ、つま先星人みたいな姿の生き物がいる世界で、僕みたいな人型の像があるって事に違和感がある」


 ジョンはジェシカの後ろ姿を見ながら言う。


「もしかしたら……ボイジャーの1号か2号、どちらかがこの星に漂着している可能性がある」


 ボイジャーとは1977年に打ち上げられた太陽系外惑星探査機のことである。


「何処かの惑星に着陸したって話は聞いているだろ?」

『それがこの星だというの?』

「だとしたら、ボイジャーの中にはゴールデンレコードがある。それには地球人の絵や文化や人間たる証明の記録が収録されているが、人間のシルエットもあるだが、もしかしたらジェシカはそれを神像と言っている可能性もあるんだよ」

『そうかしら?』


 アリッサは首を傾げる。


「それとだ、実は人間のDNA配列を記録した物も入ってる。一般には公開されていなかった内容だけどな」

『ジョン……貴方』

「それはゴールデンレコードを受け取った地球外生命体が、我々をその星で複製させるために仕組んだものだ。それこそ我々人間が種の根絶を阻止する保険みたいなものだ」

『……あのねジョンよく考えて。そもそも、このつま先星人が言ってる神像がボイジャーである可能性は限りなく低いわ。天文学的レベルにね! ほとんど貴方の願望じゃない』

「そうさ! だとしても、僕達は確かめるべきだ。今地球人は男の僕しかいない。女かクローンを作らなかれば地球人は滅亡するんだよ!」


 するとジェシカが話しかけてきた。


〘あの……誰と話しているんですか?〙

「ああ、ごめん。アリッサとちょっともめていたんだ」

〘そのジョンさんに付いているのがアリッサさんなんですか?〙

「そうさ、本当は別の身体が本当の彼女なんだけ死んでしまってね……今は僕の身体の一部として生きているんだ」

〘そうなんですか。融合したってことですか?〙

「うーん……タンパク源になったって言った方良いかな?」

〘へー、よくわかりませんね。あ! 着きましたよジョンさん! あれが神様です!〙


 ジェシカが止まると親指っぽいコブで指差した。


「……え」


 指の先を見たジョンは言葉を失う。


〘私達の祖先が残したものと言い伝えられています。祖先は互いに争い合い一度この世界を住めなくしてしまったみたいです〙

「ウソ……だろ」

〘本当です。生き残った祖先はこの世界に適応する為に、私達はこの姿へと進化しそうです〙

「そんな……そんな……」

〘そして、私達は争わない事を決め、生きる者達と共和をもっとうに生きる事を学びました。困った貴方を助けたのも我々の教訓からです〙

「僕達は……」

〘同じ過ちを繰り返さないためにね〙


 ジョンは膝から崩れ落ちた。


「僕達は……帰ってきてしまったんだ」


 彼の目の前には、自由の女神が砂漠に沈む光景が映っていたのだ。

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