1月1日何の日だ?
花森遊梨(はなもりゆうり)
謎の12月四週
「しょもーなっ!要介護認定の分際で生活保護の心配とかしょーもなっ!!人の心配より自分の心配をしててどうするよ。お互い税金を使われるもん同士仲良くなろうぜ、お義父さん」
「この授かり婚の○〇カス野郎が‼︎要介護にならずにうちの敷地を出られると思うなよ‼︎」
12月31日 緑田のマンション
今年も残すところあと1日となり、世間は慌ただしい雰囲気に包まれている。しかし、女子大生の緑田萌葱は全くの平常心である。なぜなら、彼女は大掃除も、初詣も、紅白観戦も、今年は帰省もしないからだ。
「お父さんもお母さんも要所要所で人間性が最悪で行動が悪辣で困るのよ」台所でエプロンという格好になるとその意外とメリハリのあるスタイルや、各パーツが綺麗に整った顔つきが、活動的なポニーテールの元に、パリッと快活に纏まっている。
「生活保護についてとやかく言っていた義父がとうとう要介護認定になったと聞き、ぜひ見に行こうと言ってきて、私は「勝手にしやがれ」と家でふて寝、翌朝にはガラスというガラスが全部割れてトランク部分にコンクリブロックがめり込み、両親共に頭から血をダラダラ、車からは鉄の匂いという途上国かロスで暴動に巻き込まれてアクセルベタ踏みで暴徒を轢きまくってやっと逃れたようなワイルド仕様で帰ってきてさ」
コレが年末の30日の話だ。
「要介護レベルマックスで歩けない設定のお義父さんは松葉杖が折れる勢いで奮って萌葱のお父さんの頭を叩き割ってんでしょ?お義父さんには悪いけど、似たもの同士の気配をすごく感じるよ」
すぐ隣で応じるのは 普段の赤パーカーの代わりに同じ色のエプロンを見にまとう赤井丹だ。茶色のショートボブがむき出しになルコとで、普段よりかなり幼い印象を与えている。
「じゃあ、萌葱んところの両親の実家に帰ってもよかったんじゃない?
「お父さんとお母さんは「せっかくだからこの車でマッドマックスを再現する」とか言って千葉県の採石場に行った。それをいうなら丹もご良心とは仲直りしたんでしょ」
「私は遊戯王の登場人物なの?こほん、仲直りしたけど新年の集まりに出るとまでは言ってないという部分に関しては三者一致したから」
丹が、山のような食材と、部屋でごろ寝したまま袋食いするのには最高なカントリーマアムやポテトチップスを抱えて、正月まで泊めてほしいと姿を表したのが今朝のことだ。その裏にはいろいろなことがあったらしい。
「私が言うのもなんだけど、社会性は大丈夫なの?警察官のお父さんと弁護士のお母さんなんでしょ?定期的にうちの両親と一緒に役所に攻め込んでるし」
「パパとママの社会性は金と引き換えに高レベルなのをいつも何度でも提供する仕事。ようは千と千尋の神隠し。だから金も払わず社会性を出せなんて言われたら、ニコニコ笑顔で工業にも使えるクオリティのやつを提供するものなんだと思うよ」
「清掃の仕事をしてる汚部屋住民かよ」
これが、赤と緑、二人だけの年越し。
「で、あと萌葱がやることといったら年末特番を録画するだけ録画して、YouTubeでやたら配信される特撮映画を全て「あとで見る」に登録して、一つも見ることなく1月の末を迎えること?」
「台所でその気になれば雑煮の代わりにしたり餅を入れられる豚汁をこさえている」
「作った段階で力尽きるに一票」
1月1日 イオソモールノース戸田 サイゼリヤ
「こんな多くの店舗が閉まってる中でも通常営業、私の故郷が生んだ宝とはサイゼリヤのことを言うんだよ」
いつになく上機嫌なのは、いつも通りの赤パーカーに戻った丹だ。
「一月一日というだけでやってない店舗が多い中、サイゼリヤは「新年は流石に休みにしましょう」という話にすらならない。百貨店でさえ、正月は休もうという向きになっているのにね」
こちらはモコモコの上着を脱ぎ捨てて、ライトグリーンのスエットの萌葱である。
サイゼリヤが時代に逆行しているのではない、こうやって正月早々ミラノ風ドリアやハンバーグステーキやエスカルゴを食べたいと言う、時代に全力で逆らう上に産卵もせず何食わぬ顔で川を下っていく罰当たりなシャケのような客が多いため休みがないことなど、二人は知るよしもない。
「でもさ、今日といい昨日といい、なんか忘れてる気がするけど」
「あむ。大丈夫だよ。その時忘れてることはあとでなんとかなる程度のもんだよ」
大晦日と正月を遂に思い出さなかった二人に変わりまして、あけましておめでとうございます。WEB小説と化した花森がお送りいたします。
1月1日何の日だ? 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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