第3話




 コタツに座る時、こいつはよく俺の後ろに座る。俺は背中まで温かいんだが、そんなに大きなコタツでもないので、こいつがコタツで温まっているのかはなはなだ疑問だ。

 ――まあそれ以前に、こいつの食べこぼしが俺に落ちてくるのが嫌っていうのもあるんだけど。最近は無くなってきたからよしとする。


「お前さ、何したら怒るんだよ?」


 俺がそう尋ねると、はて、と土地神様は首を傾げた。


「怒って欲しいのか?」

「いやそういうわけじゃないけど……神様って、もっとこう、人と違う感覚で生きている感じがあったから」


 ふむ、と土地神様がいう。


「確かに神は人間の道理で生きてはおらぬ。が、人間が神の道理に合わせることが出来ぬのだから、出来るものが合わせるしかあるまい?」

「理屈はわかるんだが……」


 そういうのって、最初は良くても、我慢しすぎてある日突然プツッとならないかな。やっぱ、適度のガス抜きが必要だと思うんだけど。

 俺がそう言うと、土地神様は「特に我慢もしておらんのだがなあ」と呟いた。


「ああでも、俺様も怒るというか、ちょっとイラッとすることはあるぞ」

「え、あんの!?」

「貴様が自分の体調不良を押してまで仕事に行く時は割と怒っている」

「…………いや、それは社会人的にさあ……」


 もちろん、インフルエンザとか移しかねない時はちゃんと休む。けど、単に頭が痛いなーとか、その程度じゃ休めないわけで。

「そう言うとわかっておるから態度には出さんのだ」と土地神様は続ける。


「後は甘え下手なところだな。素直に甘えればいいものの」


「酒の力が無ければ泣けぬとは」そう言われて思い出す。

 ……そう言えば酔っ払った勢いで、コイツに抱きついてワーワー泣いていた気がする。

 やべえ、俺教頭のこと言えないかもしれん。


「ご、ごめん……ご迷惑をかけました……」

「そんなもん迷惑でもなんでもないわ」


 太く逞しい腕が、俺の腰の方に回される。

 ついでに肩に顎を乗せられた。


「健やかでいろ。あと少し太れ」

「お、おう」


 なんか、くっつくのは慣れてきたけど、改めてそういう風に触られるといつもソワソワしてしまう。土地神様の頭が揺れる度、髪の毛が頬をくすぐったり、耳元で喋られるとぞわっとする。


「貴様がいれば、俺様がそう簡単に怒ることはあるまいよ」

「……なんでそんなに俺の事気に入ってんですかね」


 俺がそう言うと、「さてなあ」と土地神様は楽しげに笑った。

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