第2話

 ■


 コイツが俺に告白してきたのは、藤棚の藤が咲き始めたころ。

 めっちゃ屈託無いいい笑顔で、子どもたちと遊ぶ土地神様は、日常の延長のように、しかし間違いなく告白だとわかる言葉を口にした。


 好奇心旺盛で俺たちを見つめる女子と一部の男子。

 思いっきりからかおうとしている男子と一部の女子。

 目を輝かせたり、慌てていたりする教師陣。


 そしてこの後の対応を必死に考える俺。


 いや、なんとなーく懐かれてんなー、とは思ってた。けど誰に対してもフレンドリーな土地神だったんで、こんなもんかなー、と思っていた。

 だから「マジで?」と思いつつ、相手の真っ直ぐな態度に、「これは冗談っぽく返すべきではない」と思った。


 俺の恋愛対象は同性ではない。だから断るつもりだった。

 けれど、生徒の中には将来または今、同性を好きになる子がいるかもしれない。もしくは、同性から告白される子もいるかもしれない。

 俺の断り方次第で、この子たちのロールモデルが良くも悪くも決定するかもしれない。

 

 いや、そもそも異性だろうと同性だろうと、人前で、それも相手の職場で告白するのは相手にとってもリスクがあるかもしれないことも後で言った方がいいのか。……とか、今思うとかなりズレたことで悩んでいると。


『と、土地神様の寵愛を受けられるなど、大変光栄でございます!』


 校長が勝手に『YES』と答えやがった。おい。なんでお前が勝手に答えるんだ。


 多分土地神様を怒らせたら祟られるとか、断ったら失礼だとか、そんなことを考えたんだろうけど。普通上司は部下を庇ったりしませんかね?


 だけど、土地神様はこれを見越して、ある提案をした。


『うむ。なので俺様は、「でーと」なるものをしたいのだが、教師は忙しいのであろう? やつは休日も疲れているようでな、俺様のわがままで振り回すわけにもいかぬし』


 この土地神様の一声で、うちの職場の環境が改善された。


 ■


 ……コイツ、俺のためにあんなこと言ったのかな、と今でも思ったりするが、本人に直接聞いたことは無い。

 あの時はこの学校に来たばかりで、他の先生たちとのコミュニケーションが中々取りづらかったんだよね。マニュアル化されてない業務もあって、分からないところ聞いても雰囲気で理解するしかなかったし。

 あと校長が働かなすぎて、先生たちも疲れている感じだったし。特に教頭が代わりに働いていたからね。過労死寸前だったよね。


 だからと言って、祠を壊した挙句小便はどうかと思うんですが。


「お前もよく来るよなあ。ちゃんと返事を返してないのに」


 俺がそう言うと、ん? と、冷凍庫からアイスを取り出していた土地神が首を傾げた。


「貴様、断る気なら既にするタイプであろう」

「……いや、まあ……」


 確かに、こいつが俺の家の冷蔵庫を漁る時点で、説得力ないんだけど。

 一応最初、俺断るつもりだったし。

 ただ、ある意味恩人というか、自分だけ利益貰って断るのが何となく気が引けて、そしたら何となく居心地がよくて、何となく日常になっていっただけで。


「それに」とスプーンを口に咥えて、上からニヤリと笑う。


「俺様が来るまで、あそこで待っていたのであろう?」


 雪降って寒いだろうに。

 と、土地神は付け足した。


「…………何時から見てたのお前?」

「いや? カマかけただけだが」


 そう言ってまたパクリ、とアイスを口にした。


「貴様の頭に乗せたら、アイスも溶けそうだな」

「うるせー!」


 

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