【カクヨムコン参加】土地神様の通い婚、現代バージョン

肥前ロンズ

第1話

 誰にも踏みにじられていない、誰にも穢されてない新雪。

 朝日によって枝に積もった雪がほんの少しとけて、透明な結晶が黒い枝の先で雫となった。



「フハハハハー!! 雪だー!!」


 あ、台無しになった。

 雪が降り積もった庭を、半裸になって転がり回る男を見て、俺は目が遠くなる。小学生でもやらんわそんな暴挙。

 俺は開いた障子に、力の抜けた身体を預けた。寒いので両腕を組む。


「お前ね、そんなふうに泥まみれになって、家に入れて貰えると思うなよ」

「はう!?」


 髪の毛を雪まみれにしながら、ショックを受ける大型犬、ではなく。

 こんなナリだけど、ここら一帯を支配する土地神様なのである。






 ちょっと遡ること数ヶ月前。

 俺はこの山にある小学校に赴任してきた。


 赴任して早々、生徒が学校付近に祀られていた祠を破壊した。


 まったく、小学生というのは、こちらが想定していないことをアッサリやってのけるのだ。

 例えば前務めていた学校なんて、「タブレット端末でトランプタワー出来るかな」とやって破壊しやがったからな。俺が今小学生やってたらやってたかもしんないけど。


 だが、子どもがしでかしたことに責任を取るのが大人の仕事である。

 とりあえず、皆と協力して祠をなおした。素人が手をつけたので、何やら違法建築っぽくなってしまったが。

 そしてその後お供え物をし、皆で誠心誠意謝った。


 その後、この土地神様がやって来た。小学校に。

 最初は不審者と思って、思わずさすまたを持ってきてしまったが、校長から止められた。どうやらこの土地神様は人間に対してフレンドリーらしく、しょっちゅう姿を現していたらしい。子どもたちもよく彼の姿を見掛けていたようで、秒で懐いた。

 小学校に来た理由は、「祠がカッコよかったから褒めに来た」らしい。


 そうこうしているうちに、こいつは何故か俺の家に入り浸るようになったわけだ。






「大体お前、蛇神なんだろ? 蛇は変温動物なんだから、寒さに弱いんじゃないの?」 


 俺がそう言うと、「と言ってもなあ」と土地神様が言う。


「俺様は長いこと祀られているうちに、色々な神と融合することになってしまったからなあ。今じゃ八幡神と稲荷神と天満神の影響の方が強い」

「てんこ盛りじゃん」


 いや、あるよね。俺の実家の近くにある神社も、そんな感じだったし。

 とはいえ、隣でコタツにこもる姿を見ると、やはり寒さには弱いんじゃないか? とも思う。

 

「それよりも貴様、また俺様の祠をなおしに来るといい!」

「は? また壊れたの?」


 俺が聞くと、「うむ!」と元気よく頷く。



「今度は教頭が酔っ払った勢いで破壊した上小便掛けた」

「お前、それガチで怒っていいよ!!」



 何やってんだ教頭!? 職業倫理的にも宗教倫理的にもアウトだろ!?


「いや、何。教頭という中間管理職で、あの者もかなり気苦労していることであるし。迷惑が俺様だけにかかる程度であるなら、怒るほどでもあるまいよ」

「神様だってのに、寛容だよなお前……」


 サブカルチャーではもっと理不尽に怒っている存在なんだけど。こいつ見てると、誹謗中傷レベルなんじゃないかと思ってしまう。

 まあ、そのツケが俺に回ってんのは怒りたいんだけど。ホント何してんだ教頭。


「まあ、あそこは分祀だしな。俺様の本尊がある社は、人が立ち寄れぬ滝の向こうにあるしな。そこさえ侵されなければ問題あるまい」


 それに、と土地神様は俺の髪をひとすくいした。


「もうここが俺様の祠のようなものであるしな」

「…………………」


 黙り込む俺。

 ふは、と、土地神様は笑った。


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