消えた缶の謎
「ねぇ、おばあちゃん。なんで?」
今日の乗客は無邪気な男の子とおばあさんだ。男の子は、先ほどから「なぜ?」を繰り返して、祖母を困らせている。「なんで、缶ジュースを買ってくれなかったの?」と聞かれたら、祖母は「缶ジュースはなかったでしょう?」と答える。
しかし、それだけで孫の「なぜなぜ攻撃」は終わらなかった。次の「なぜ?」は、「なんで、缶ジュースだけ売り切れていたのか」だった。
「なんで、缶ジュースだけなかったか? 私にも分からないわ。なんでも知っているわけじゃないからねぇ」
私は男の子の「なぜなぜ攻撃」を微笑ましく思っていた。「なぜ?」という質問は、好奇心からくるものだ。残念ながら、大人になると好奇心を失って「なぜ?」を問うことはなくなってしまうが。この子には、そのようにはなって欲しくないと、ぼんやりと考えていた。
「ねえ、なんで缶だけ売り切れていたの?」
その問いは私に向けられたものだった。意外な言動に面食らう。まさか、私にも「なぜなぜ攻撃」をしてくるとは。
「私にも分からないなぁ。でも、推測することはできるかもしれない。その自動販売機は、どこにあったのかな?」
「うーんとね、公園!」
「ええ、この子の言う通りです。公園の自動販売機なんです。缶だけ売れ切れていたのは」と、祖母がフォローする。
公園か。誰もが飲み物を買うはずなのに、缶だけ売れ切れているのは、確かに謎だ。
「もしかしてですけど、そこは児童公園ではありませんか?」
「そうね、その方が正確な表現ね」
なるほど、それなら一つの仮説が成り立つ。「おそらくですが」と、ゆっくりと切り出す。
「子供たちが缶蹴りをするためではないでしょうか?」
「缶蹴り?」と、祖母は驚きの声をあげる。
「ええ、そうです。缶蹴りをするのには、ペットボトルではできませんからね。それだけではありません。児童公園なら、普通の公園より子供が多いはずです。彼らは身長が低いですから、高いところにあるペットボトルのボタンには届きません。まあ、あくまでも仮説ですけれどね」
私の仮説に「なるほど」と、祖母は頷く。しかし、男の子が「缶蹴りってなぁに?」と、今度は「なになに攻撃」をしてくる。そうか、今の子供の中には、缶蹴りを知らない子もいるのか。時の流れを感じて、少し寂しく思う。
男の子は缶蹴りについて知ると、「おばあちゃん、今度やろうよ!」と、無邪気に言う。お年寄りには難しいかもしれない。しかし、彼女はやるのだろう。可愛い孫の要望なのだから。
副業は探偵ですが何か?〜タクシー運転手の謎解き〜 雨宮 徹@n回目の殺人🍑 @AmemiyaTooru1993
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